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「洪庵」と能登の酒

 震災に見舞われた石川県の奥能登は酒どころとして知られる。能登杜氏(とうじ)は日本四大杜氏の一つとされ、その造る酒の味は「濃厚で華やか」と評される▼産地が受けた打撃は激しいようだ。石川県酒造組合連合会によると、奥能登にある酒造会社全11社が今冬の醸造を断念する方針だという。いまだ水が出ず、電源復旧のめどが立っていない▼全国の蔵仲間などが支援の動きを見せている。大阪大と愛媛大、愛媛県西予市野村町の住民組織による「NEOのむら」もその一つだ。先日、小欄で紹介した岡山出身の蘭学者と同名の日本酒「緒方洪庵」の存続活動をきっかけに誕生し、野村町の地域づくりに取り組んでいる▼今回は「洪庵」の青色の瓶にちなみ、赤い羽根ならぬ「青い酒募金」を始めた。300ミリリットル2本を3千円で買ってもらい、集まったお金で能登の酒を購入する。さらに能登の酒を飲む会を開き、参加費を能登に寄付する構想も練る▼原動力は被災の経験だ。「洪庵」はもともと野村町の酒造会社が造っていたが、2018年の西日本豪雨で水害に遭って酒造りの継続を断念。洪庵が開いた適塾の流れをくむ大阪大が支援に乗り出した▼募金は今月末ごろまで続く予定だ。洪庵は江戸末期、天然痘の種痘普及などに努めて人命を救った。同じ名の酒も伝統産地の命脈をつないでほしい。

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