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鉄路の先に ローカル線と地域(4)宇都宮教授インタビュー 鉄道の維持、活用は地域主体で検討を

鉄路の先に ローカル線と地域(4)宇都宮教授インタビュー 鉄道の維持、活用は地域主体で検討を

 地方の人口減少や新型コロナウイルス禍で鉄道事業者の経営が厳しくなり、ローカル線の存廃問題が浮上しています。JR西日本は4月、利用者が少ない路線の収支を公表し、沿線地域と今後の在り方を話し合う考えを示しました。地域の鉄道の将来はどうあるべきなのでしょう。関西大経済学部の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「鉄道を社会のインフラとしてとらえ直し、地域が主体的に維持や活用を考えよう」と提言しています。

■ポイント


・JR西日本だけの力で赤字ローカル線を支えるのは限界に来ている
・自治体は、鉄道を社会インフラの一つに位置付け、維持や活用に関わるべきだ
・路線を維持するかは、地域が自分たちの問題として考えよう
・投資して利便性が上がれば、鉄道は地域の発展につながる
・国も地方もローカル線を支えるため、新しい時代に合う仕組みづくりの議論を


■時代の変化で維持限界に


 ―JR西日本のローカル線で何が起きているのでしょう。

 ローカル線が支えられなくなったのは事実です。今までJR各社は独立採算で、大都市圏と新幹線の収益を使う「内部補助」という仕組みでローカル線を維持してきました。世界ではまれですが、人口が右肩上がりに増えた時代にはそれでも事業者はもうかったのです。ところがコロナ禍以前からの人口減少や自動車の普及でこの構図が限界を迎えました。民間企業が内部補助をするには、長い目で見れば自社発展に役立つなどメリットが必要でしょう。でもローカル線を維持しても、民間事業者であるJR西には利点がありません。JR西に路線を守ってくださいと言うのは、企業にボランティアを求めていることになります。

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■国鉄民営化再考論は後ろ向き


 ―他のJR各社でもローカル線維持が難しくなっています。内部補助の仕組みを前提とした1987年の国鉄分割民営化が失敗だったのではという指摘も出てきました。

 国鉄の歴史は49年から87年まで38年でした。JRは35年続き、国鉄とほぼ同じ年月を重ねています。いまさら民営化時点に戻って考えるのはあまりに後ろ向きな議論ではないでしょうか。JRが発足した時から時代状況は大きく変わっています。新たな時代に合うように鉄道を活用するには、どのような制度や枠組みが必要か、次のフェーズのための本格的な議論をするべきです。

中国山地の山あいを走るJR姫新線の列車。沿線地域の人口減少や自動車の普及で利用者が減少している=津山市
中国山地の山あいを走るJR姫新線の列車。沿線地域の人口減少や自動車の普及で利用者が減少している=津山市

■路線の将来は地域で決定を


 ―収支公表には、岡山支社運行エリア(岡山県、広島県東部など)では芸備、姫新、因美の3路線6区間が含まれています。これらの廃線もあり得るのでしょうか。

 輸送密度が2桁の区間も含め、何が何でも全てを維持するのは現実的ではないかもしれません。鉄道が地域に果たす役割も含め、地域の交通インフラをどうすべきかは、地域が自分たちの問題として主体的に考えた方がよいと思います。バスと比べ、鉄道は一度に多くの人を運べるほか、渋滞がなくダイヤが正確、外国人を含めて地域外の人にも使いやすい、地域のシンボルになるといったメリットがあることは指摘しておきます。

 ―それでは、どんな路線を残すべきなのでしょうか。判断基準を教えてください。

 JR西日本が収支公表の基準とした1キロ当たりの1日の平均乗客数(輸送密度)2千人未満は、あくまで収支上の問題によって、自分たちだけで抱えるのは無理としただけです。もっと少なくても十分、鉄道の特性を発揮できます。例えば津山駅周辺の姫新線のように2千人の半分程度でも、朝夕は通学の利用者ですごく混雑しています。もし廃線にしてバスへ転換するなら大量の車両が必要になり、運転手も確保しなくてはなりません。その結果として、自家用車を使う人がさらに増えれば、脱炭素とも逆行してしまいます。人口1万人規模の都市であれば、サービスの向上によって潜在需要が掘り起こせます。欧州では津山市くらいの都市は、鉄道がしっかり機能し、街も大いににぎわっています。

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■鉄道は地域の財産


 ―地方自治体は、鉄道に関してノウハウが少ないのではないでしょうか。

 確かにこれまで鉄道のことは事業者にお任せでした。鉄道に関わったら負担が増すと敬遠するのではなく、地域の財産として前向きにとらえてはどうでしょうか。道路や図書館、市民プールのように地域を支える社会インフラの一つで、まちづくりのツールと考えを変えましょう。道路は自治体がまちづくりの視点で建設し、道の駅も造っています。なぜ鉄道になるとできなくなるのでしょうか。今のままJR西日本に任せていても、投資がされず、コストカットによる便数減などが進んで不便になるだけです。

 ―地方自治体は鉄道にどう関わるべきでしょうか。

 地域の路線はどうあるのがよいのか、身近な地方自治体が一番分かるはずです。まず鉄道やバスなど地域の公共交通を、公共サービスの一つにきちんと位置付け、どの程度の水準のサービスを提供するかを地域で決めましょう。その上で投資もしっかりして便利で使いやすい鉄道を目指します。あまり多額の費用をかけなくても行き違い設備を設けて便数を増やしたり、駅を新設したりすれば便利になります。うまく活用することで地域が発展できるようになります。

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■運営にも公的負担を


 ―自治体が設備投資面で協力すれば、運行事業者だけでも鉄道を運営できますか。

 鉄道やバスなどの公共交通で一定水準のサービスを提供しようと思うと、黒字にはなりません。そこは運営面についても公的な負担でカバーする必要があります。線路などの設備を自治体が所有して維持管理も担い、事業者が運行を担当する「上下分離方式」が有効でしょう。欧州では一般的となっています。相手は民間なので、一定の運行を確保する義務をしっかり契約で結んでおきます。欧州では公共サービス義務(PSO)という手法がとられています。

■公共交通の地方分権を


 ―とはいえ、自治体の財政は厳しい状態が続いています。

 今の日本では、税収が大都市に偏っています。地方が鉄道の責任を持つのであれば、地方への財源移譲や財政措置を求めて声を上げ、制度を変えていくことも必要でしょう。今は鉄道事業の権限を国が握っていて、全て運輸局にお伺いを立てなければなりません。権限も要求すべきだと思います。安全チェックなど専門的なことは運輸局でよいのですが、サービス水準を決めるのは地域の方がふさわしいのでは。次の新たな時代を支える仕組みづくりです。国も地方も本腰を入れた議論が求められます。

 ―財源や権限の移譲には時間がかかります。

 時間がかかるといって問題を先送りすれば、地方の人口はさらに減り、悪循環が加速していきます。上下分離の場合、これまで事業者が線路や駅などの資産を無償譲渡するといった対応も行われていました。問題を先送りして、路線の収益がさらに悪化して赤字が膨らむと、事業者にそうした余力が少なくなります。今、抜本的な議論をした方がいいです。補助金を少々増やす程度のことを現行の枠組みの中でやっていると、かえって無駄な支出が増える恐れがあります。

宇都宮浄人教授
宇都宮浄人教授

■鉄道の可能性


 ―国の有識者検討会でもローカル線を巡って議論が進んでいます。

 コストの議論だけが先走るようならまずいと思います。鉄道単体で収支を合わせるのではなく、地域が将来どう豊かになるのかという視点で考えてもらいたいものです。

 ―鉄道にはどんな可能性がありますか。

 温室効果ガスの削減などで欧州では鉄道が復権しています。英国ではグリーンな投資として廃線の復活に乗り出しました。オーストリアは日本円で十数万円の年間料金を支払うと国内の鉄道、バス、路面電車、高速鉄道が全て乗り放題の制度を導入しました。地方の活性化にも一役買っています。

     ◇

 うつのみや・きよひと 1984年、日本銀行に入り、調査統計局物価統計課長などを歴任。2011年から現職(17、18年ウィーン工科大客員教授)。専門は交通経済学と経済統計。著書に「鉄道復権」「地域公共交通の統合的政策」など。兵庫県西宮市生まれ。京都大経済学部卒。61歳。

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