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編さん続く自治体史

 口が悪い人は「本棚の飾り」と言う。片手で持ちにくいほどの分厚さ。布張りの表紙に金色の背文字、箱入りという豪華さ。でも取り出して読まれることは少ない、と。県史や市町村史といった自治体史のことだ▼刊行は平成の大合併を機にピークを迎えた。岡山県内でも2000年前後の10年間で20を超える市町村史が世に出た。奥津、牛窓、成羽町など今は名が消えた自治体も多い▼考古学、古代史から近現代史、地質や植物学まで多くの専門家を集め、歴史資料を掘り起こし、分類整理して、組み上げた歴史像を記述する。編さんの作業は今も続いている▼内容にもトレンドがあるらしい。刊行されたばかりの「新修津山市史」通史編の初巻は原始・古代という史料が少ない時代なのに、あえて「災害」の章を設けてある。近年大規模な災害が相次ぐ中、同様の現象が過去にも起きていたことが知られてきたからだろう▼弥生時代の集落跡を覆う厚さ2メートルもの洪水砂、飢饉(ききん)とともに繰り返された奈良時代の疫病。古代吉備の一角にあって山陰や近畿とも独自に交流して築いた繁栄だけでなく、苦難の歴史も書き記す▼大冊にその土地で懸命に生きた先人たちの営みが詰まっている。現代の暮らしや地域づくりのヒントが見つかるかもしれない。自宅や図書館に飾っておくだけではもったいない。

(2024年04月21日 08時00分 更新)

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