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“吉備の至宝”千足古墳を復元 岡山市教委、30日から公開

約1600年前の姿に復元された千足古墳。墳丘斜面の葺石は元々なく、盛り土の流失を防ぐため芝生で覆っている
約1600年前の姿に復元された千足古墳。墳丘斜面の葺石は元々なく、盛り土の流失を防ぐため芝生で覆っている
千足古墳の後円部上に並べられた円筒、家形埴輪など。右奥には主墳の造山古墳が見える
千足古墳の後円部上に並べられた円筒、家形埴輪など。右奥には主墳の造山古墳が見える
後円部のトンネルを通り、装飾石室を上部から見学できる。モニターには3次元測量を基に製作した石室内の映像が映し出される
後円部のトンネルを通り、装飾石室を上部から見学できる。モニターには3次元測量を基に製作した石室内の映像が映し出される
“吉備の至宝”千足古墳を復元 岡山市教委、30日から公開
 1600年を経て吉備のシンボル復活―。国史跡・造山古墳群(岡山市北区新庄下)の一つ、千足古墳(5世紀前半)で岡山市教委が進めていた復元整備が完了し、30日から全面公開する。

 墳長81メートルの前方後円墳で、主墳の造山古墳(約350メートル)に従う6基の陪塚(ばいちょう)では最大。3段築成の後円部、1段の前方部は長年の風雨で大きく削られていたが、盛り土をして築造時の美しい姿に再現した。整備のきっかけとなった、劣化損傷した貴重な装飾石室も、保護策を講じた上で間近に見学できるようにした。

 本州では珍しい九州系の石室内に神秘的な古代文様が刻まれ、“吉備の至宝”とも言われた千足古墳の再生は、岡山の誇るべき文化財を積極的に保護・活用する新たな一歩になる。市教委文化財課は「古代吉備はヤマト政権に匹敵する勢力を誇った。その壮大さを県内外に発信したい」としている。

 千足古墳(岡山市北区新庄下)の保護・復元整備は、岡山市教委が14年がかりで取り組んできた。劣化損傷した貴重な装飾石材を取り出し、全面的な発掘調査を実施。傷んだ石室を保護しつつ、美しく整った墳丘や多彩な埴輪(はにわ)群を再現して、古代吉備を彩った景観をよみがえらせた。

 事業の契機は2009年、後円部の石室内に刻まれた精美な古代文様・直弧文(ちょっこもん)の剥落が判明したことだった。明治期の乱掘などが原因で、石室内に長年水がたまった状態で放置されてきたための事態。市教委は従来の「現状保存」の方針から、積極的な保護・活用へとかじを切った。

 15年度から始まった復元工事では、後円部を防水シートで覆うなどした上で、最大高8・7メートルまで盛り土をし、築造当時の雄姿を取り戻した。石室上部は土の重さを軽減するため、高強度の発泡スチロールを敷き詰めた。墳丘には発掘で出土した円筒や朝顔形、靫(ゆき)形などの埴輪の複製品約240本をずらりと並べている。

 “聖域”である石室内も見学できるよう、後円部に約9メートルのトンネルを設置した。訪れた人は石室の上部から、九州地方に多くみられる板石をドーム状に積み上げた独特の構造や、直弧文が刻まれた装飾石材・石障(せきしょう、複製)を観察できる。

 岡山県内の前方後円墳の本格的な復元は初めてで、総事業費は約2億9千万円。市教委文化財課は「直弧文の損傷からのスタートだったが、発掘調査に基づく墳丘設計など復元のノウハウを蓄積できた。本年度からは造山古墳の整備にも着手し、岡山の文化財の価値を広く体感してもらいたい」と話している。

 石室は30日以降、火曜~日曜の午前10時~午後3時に公開。墳丘は常時開放され、既に見学できる。

(2023年04月26日 21時56分 更新)

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