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県立博物館“訪問型”調査に注力 文化財消失に危機感 美咲で第1弾

副館長(左)が美咲町で行った調査報告会。地元に伝わる「大般若経」の由来などを住民が熱心に聞き入っていた=2月26日
副館長(左)が美咲町で行った調査報告会。地元に伝わる「大般若経」の由来などを住民が熱心に聞き入っていた=2月26日
 岡山県内各地に残る歴史資料を積極的に保護しようと、県立博物館(岡山市北区後楽園)は、地域に出向く“訪問型”の調査活動に力を入れ始めた。過疎高齢化で管理する人が減る中、住民にその価値や保存方法を伝え、共に守っていく体制をつくるのが狙い。同館は2023年度からの中期目標で初めて重点項目に位置付けており、美咲町で先行して第1弾の活動を行った。

 2月下旬、同町西部の山あいの集会所に、横山定・同館副館長と住民約30人が集まった。目的は、氏神である刀八神社(同町中)に伝わる仏教の経典「大般若経」の調査報告会。室町時代初めに書かれた90巻に及ぶ巻物で、横山副館長が「災いをはらう意味を持ち、神社に奉納されることがあった。地元で書写されたもので、一帯の村々で守り継いできた」と解説し、参加者が熱心に聞き入った。

 これまで同館の調査活動は、展示する際に所蔵資料を調べ直したり、地域から寄贈される品を分析したりするのが中心。地域に足を運んで文化財を掘り起こすケースは多くなかった。

 新しい取り組みでは地域に眠る資料に光を当て、地元に成果を還元することにも注力する。関心を持ってもらった上で、一番身近な“守り手”として、どう保存していくかの助言まで行う。

 背景には、文化財の消失への危機感がある。実際、空き家になった個人宅の古文書や書画が散逸したケースがあり、寺社を支える檀家(だんか)や氏子も減っている。横山副館長は「いま対策を講じないと、どんどん手遅れになってしまう」と語る。

 刀八神社も同様で、宮司が常駐せず、氏子の高齢化も進む。今回の調査は博物館側が提案し、昨年6月から実施。巻物の由来を読み解き、600年前に地元の僧ら少なくとも6人が協力して書き上げ、江戸期に補修されたことなどを明らかにした。氏子総代長の金田悦明さん(76)は「貴重な物だと分かった。このまま神社で保管するか、それとも博物館に寄託するか。今後を真剣に考えたい」と話した。

 中期目標では年2件の実施を掲げるが、各地から寄せられる相談にも応じていく。県立博物館は「地域の情報を共有して一緒に守っていく。文化財の継承は博物館の使命であり、存在意義を発揮したい」としている。情報提供は、同館(086―272―1149)まで。

(2023年03月25日 20時13分 更新)

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