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カチューシャの唄

 「カチューシャかわいや わかれのつらさ」で始まる「カチューシャの唄」は日本初の流行歌だそうだ。きょうはその記念日▼110年前の3月26日に劇団芸術座が初演した「復活」で松井須磨子が歌い、レコードにもなった。トルストイの原作は罪の償いといった人間の内面を描くが、島村抱月は大衆受けする悲恋物語に脚色したという▼19世紀末にトルストイが「復活」を書いたのは、当時、帝政ロシアに迫害されていたキリスト教異端派を海外移住させる資金作りのためだった。非暴力を訴え、徴兵を拒んで弾圧された信者に強く共鳴したのだろう▼自らも非戦論者で、政府に加え国家権力と癒着しているとしてロシア正教会も批判した。残念かな時代下って今の教会とプーチン政権の蜜月ぶりも相当だ。キリル総主教は表立って隣国への侵攻を支持している▼先日、モスクワのコンサート会場を銃乱射テロが襲った。大勢の命を奪った蛮行を許すことはできない。さらにはプーチン大統領がウクライナの関与を示唆しているのも看過できない。もし新たな攻撃の口実にしようとしているのなら、もってのほかである▼人は往々にして「偽りの美的で詩的なベール」に隠れた「野獣」を神聖視し、没入してしまう―。「復活」にある警句に、三つの世紀にまたがる時を経てなお、心凍らされる。

(2024年03月26日 08時00分 更新)

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