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映画と美作番茶

 岡山県発の映画がまた一つ生まれた。美作市在住の作家あさのあつこさんの小説を原案に、同市出身の映画監督大谷健太郎さんが手がけた「風の奏(かなで)の君へ」。主な舞台はもちろん美作市だ▼6月7日の公開を前に、地元で開かれた特別上映会を鑑賞した。松下奈緒さんが演じるピアニストと茶葉屋の兄弟の切ない恋物語に、湯郷温泉や蛍舞う川などの風景が郷愁を添える▼ひときわ印象深いのは茶畑の映像美だ。手入れされた茶樹の畝が緑の縞(しま)模様となって斜面をうねり、陽光にきらめく。自然と人の手が織りなすアートのような美しさだった▼撮影地の同市海田地区は山あいの里。寒暖差が大きい気候も作用して良質の茶葉が育つ。製茶業者も複数あり、煎茶やほうじ茶など多彩な茶が生産される。中でも近年評価を高めているのが番茶だ。東京などのお茶好きが集うイベントに招かれるほどという▼梅雨が明けた夏、茂った葉を枝ごと刈り、大釜で蒸し煮にし、それを天日干しする。しかも煮汁を掛けながら。全国でも珍しい製法らしい。あめ色の照りをたたえる茶葉でいれた一服は口中に何とも爽やかな味わいを広げる▼岡山にこれほどの茶どころがあったとは。人気上昇中の美作番茶もまだ県内での知名度はもう一つという。映画は心に染みる物語とともに土地の隠れた魅力も伝えてくれる。

(2024年05月20日 08時00分 更新)

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