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「父を尊敬したことは一度もなか…

 「父を尊敬したことは一度もなかった」。東京都武蔵村山市に住む黒井秋夫さん(74)に電話をかけると「多くの人に知ってほしい」と、復員兵だった父親の話をしてくれた▼旧満州(中国東北部)などで従軍し、戦後は定職に就かなかった。無気力で家族ともほとんど会話をせず、孫が話しかけても笑わない。76歳で亡くなるまで親子で心を通わせた記憶がなかった▼父への見方が一変したのは7年前。ベトナム戦争から帰還した米兵が心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされている映像を見て一瞬で悟った。「父と同じだ」▼復員兵の苦しみを理解できなかった自分を責めた。戦争の実態を自分たちが伝えなければならないと4年前、「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」のホームページを立ち上げた▼「戦後、父はアルコール依存に苦しんだ」「家族に暴力を振るっていた」…。黒井さんの元には全国から多くの証言が寄せられている。今年8月には東京で初めて証言集会を開催。来年6月には大阪でも予定している▼太平洋戦争の開戦からきのうで81年。戦争がもたらす苦しみの大きさを見つめたい。黒井さんは自宅に併設した交流拠点に白旗を掲げている。かつて戦場で銃を持った父。その姿を思い浮かべながら「私たちは銃を取らない」との決意を込めたという。

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