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多頭飼育崩壊 福祉の支援も欠かせない

 ペットが増えすぎ、きちんと世話をできなくなる「多頭飼育崩壊」と呼ばれる問題が後を絶たない。

 昨年11月、神奈川県海老名市で144匹の猫を飼っていた夫婦が動物愛護法違反の疑いで書類送検された。約10年前に娘が拾ってきた1匹から増え、近隣住民が臭いや鳴き声について市に相談していた。同月、京都府八幡市の保護ボランティアの女も同容疑で逮捕された。活動仲間から頼りにされ、犬や猫の引き取りを断れなくなっていた。

 多頭飼育崩壊は犬、猫、ウサギなどに不妊去勢手術を施さず大量繁殖させる飼い主の無理解、無責任から起こる。だが、その背景には生活困窮や高齢化による判断力低下、社会的孤立などさまざまな要因が複雑に絡むことが明らかになってきた。解決には動物愛護だけでなく、福祉の視点からも飼い主への粘り強い支援が欠かせない。

 環境省によると多頭飼育を巡る苦情は2018年度に全国で計2149件に上った。自治体が対応した事例の分析では「60代以上」「単身世帯」の飼い主が約半数を占め、認知症や知的障害が疑われる人も少なくなかった。

 こうした状況を受け、環境省は現場で対応する自治体や住民向けのガイドラインを初めて作り、公表した。多頭飼育崩壊を「動物、人、地域の問題」と位置付け、動物愛護と社会福祉の両部局のほか、精神科医や警察、動物病院、愛護団体などが連携して予防と解決に向けた取り組みを進めるよう促している。

 全国では、京都市など既にケースワーカーらが自治体職員に同行して飼い主との交渉に当たる動きも出ている。初めは動物を手放したがらなかった飼い主が社会福祉協議会の説得でデイサービスに通い始めたところ、執着が軽減して保護に応じた―といった例もあるという。

 札幌市などは一定の頭数を超えて飼う場合の届け出を義務付けている。岡山県や岡山市はこれから情報共有を進めるとしているが、支援が必要なケースをいち早く見つけ、飼い主の生活の立て直しにつなげられる仕組みづくりに努めてほしい。

 ガイドラインでは家族との死別、自然災害、失業などを機に多頭飼育崩壊に至った事例も紹介している。動物を飼うことのリスクについて理解を深めることも大切だ。

 言うまでもなく、飼うからには動物の命に責任を持たねばならない。昨年施行の改正動物愛護法では「密度が著しく適正を欠いた状態」で飼育して衰弱させることは虐待に当たると明記している。

 多頭飼育崩壊は公衆衛生に関わる問題でもある。ペットは飼い主の所有物で取り上げることはできないが、行政主導で一時保護できるようにするといった法整備についても議論が必要だろう。官民が連携し、人も動物もすみよい地域を目指したい。

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