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WHOコロナ報告 客観性に疑念が拭えない

 新型コロナウイルスの起源解明に向け、中国湖北省武漢を訪れた世界保健機関(WHO)の国際調査団が報告書を公表した。中国の研究所からウイルスが漏えいしたとの説を否定した内容だ。この調査結果に対し、日本や米国など14カ国は透明性などを問題視し「懸念を表明する」との共同声明を出した。

 今回の調査や報告書は、中国側が提供する情報に依拠したものであり、独立性や客観性が十分に担保されているかは疑問だ。今後、起源の解明に向けては、独立した専門家による客観的な調査や分析が欠かせない。

 報告書はウイルスの経路について、自然界から中間宿主の動物を介して人間に広がったとみられると結論付けた。新型コロナに似たコロナウイルスはコウモリやセンザンコウから検出されたものの、中間宿主の特定には至っておらず、ネコやミンクが感染しやすいことから他の動物の可能性もあると指摘している。

 新型コロナを巡っては、米国のトランプ前政権は中国科学院武漢ウイルス研究所からの漏えいを疑った。だが報告書は、同研究所を含めて武漢周辺の三つの研究所からの漏えいを否定する根拠として、各施設の安全管理が行き届いていたことなどを挙げた。

 これに対し、日米をはじめ英国、カナダ、韓国などが名を連ねた共同声明は「調査の実施が大幅に遅れ、完全なオリジナルのデータや検体へのアクセスが欠如していた」と指摘。WHOのテドロス事務局長も「さらなるデータや調査が必要だ」と述べた。

 日米などの専門家10人で構成された調査団は今年1月中旬、武漢に入り、武漢ウイルス研究所などを視察したが、感染対策を理由に行動は大幅に制限された。さらに、調査と報告書の取りまとめは中国と合同で行われた。当初、2月中旬にも概略版が公表される予定だったが、中国側との内容調整に時間がかかり、1カ月半もずれこんだ。

 その内容も、自国が起源となったことを否定したい中国側の意向が強く反映されたものとなった。現地調査は中国側が同意したものに限られたためだ。こうした状況でまとめられた今回の報告書については、信頼性を疑問視せざるを得ない。

 中国外務省は「科学的で専門的な精神を示した」と報告書を称賛している。また、ウイルス研究所からの漏えい説の否定については「明確で重要な結論だ」とし、再度調査団を受け入れるかどうかは明言していない。

 だが、新型コロナの起源を解明する取り組みは、感染拡大を抑えるためだけでなく、未知のウイルスによる新たな感染症に備えるためにも重要だ。国際社会が連携し、中立的な専門家主導による調査の実施が求められる。WHOの調査権限を強化するなど体制や機能の抜本的な見直しも進めなければならない。

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