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生殖補助医療 子の権利守る議論を急げ

 第三者から卵子や精子の提供を受けた生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確化する民法の特例法案が、今国会で成立する見通しとなった。

 女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子の提供者でなく出産した女性を母とする。妻が夫の同意を得て、夫以外の精子の提供を受けて妊娠した場合、夫は自分の子であることを否認できない―。こうした内容が法案の柱になっている。

 自民、立憲民主、公明など与野党6党が議員立法で共同提出した。

 現行の民法は生殖補助医療による出産を想定していない。生まれた子どもの法的身分の保障がなく、親子関係の認定を巡って訴訟も起きている。法整備の必要性は約20年前から指摘されており、一歩を踏み出す意義はある。

 ただ、法案は多くの課題を棚上げした。最も問題なのは生まれた子どもが遺伝上の親の情報にアクセスできる「出自を知る権利」が盛り込まれなかったことだろう。

 提供者の情報の管理や開示の在り方については、法案の付則で2年をめどに法的措置を検討するとし、先送りされた。さらに卵子や精子の売買やあっせんに関する規制も同様に今後の検討課題とされた。その2年の間にも生殖補助医療で生まれてくる子どもたちがいる。速やかに議論を始めるべきである。

 国内では、第三者の精子提供による生殖補助医療が1948年から行われ、生まれた子どもは1万人とも1万5千人以上ともいわれる。98年には、提供された卵子を使った出産が国内で行われていたことも明らかになった。

 厚生労働省の専門部会は2003年、一定の条件で第三者による精子や卵子の提供を認め、生まれた子どもが15歳以上になれば提供者の情報を開示請求できる法制度の整備を求める報告書をまとめた。しかし、この時は自民党内に反対意見があり、法制化に至らなかった。

 ルールがないまま実態が先行する形となり、近年は国内での提供者が不足し、不妊に悩む夫婦が海外の精子バンクを利用したり、卵子提供を受けるために渡航したりするケースが増えているという。

 何より重視されるべきは、生まれてくる子どもの権利をどう守るかという視点だろう。海外では、出自を知る権利を認める動きが広がりつつある。日本国内でも生殖補助医療で生まれ、成人した当事者たちが出自を知る権利を求めて声を上げている。

 現状では、提供者の個人情報の管理が徹底されておらず、子どもが開示を求めても拒まれているという。出自をたどれないことでアイデンティティーの喪失に苦しむ人が実際におり、遺伝上の親の病歴を知れないことによる健康上の不利益なども指摘されている。当事者の声を十分に踏まえた議論が求められる。

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