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この地に生きる2・プロローグ(下)提言―美作大・短期大学部の公開講演会から

片山善博氏
片山善博氏
山田啓二氏
山田啓二氏
 急速に人口が減っている地方において、どう地域の活力を生み出していくのか。美作大・短期大学部(津山市北園町)が、地方で活躍する人材の育成や美作地域への貢献のため開いている「地方創生論」の公開講演会が一つのヒントになる。同大客員教授を務める岡山市出身の片山善博・早稲田大公共経営大学院教授(元総務相、元鳥取県知事)と、前京都府知事の山田啓二氏=4月に美作大客員教授就任=が1、2月にそれぞれ行った講演の要旨を紹介する。

片山善博・元総務相、元鳥取県知事―「地元にお金回そう」

 安倍政権は2014年、地方の深刻な人口減に歯止めをかけようと地方創生を打ち出した。着眼点は正しいが、成果は出ていない。第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が20年度から始まるが、これまでと違うやり方が必要だ。

 第1期は地方のことが分からない国が処方箋を描いた。市町村の多くは総合戦略を東京のコンサルタント会社に依頼したが、地方の現状を反映していなかった。

 東京からは「若者が大都市に出るのは地方に仕事がないから」と見えるが、地方も人手不足は深刻だ。都市に出るのは賃金が低いからだ。建設業を例にとると、大きな工事は東京の大手が受注して地元業者は下請けで利益幅が少ない。地方の業者に必要なのは、魅力ある仕事を受注できるよう技術力を高めることだ。

 地域のことは地域住民が一番知っている。地方創生は地方が考え、県や国が後押しする形にするべきだ。

 地方に共通した問題が、お金が地域から出ていく現象だ。お金が出れば雇用も出ていく。例えばフランス製ワインを飲むとフランスに雇用ができ、地酒だと地元の造り酒屋に雇用が生まれる。「域際収支」という言葉があるが、地方創生では地域にお金が入るように考えなければならない。例えば学校給食の地産地消を進めれば域際収支が改善する。一つ一つは小さいが積み重ねると違ってくる。

 一人一人ができることから地域に貢献する。アマゾンが便利でも地元の本屋で買ってほしい。公共交通が不便でもみんなが使えば維持できる。安い、快適、便利といった尺度の変更が必要で、それが広い意味で地方創生に寄与することになる。

 かたやま・よしひろ 1951年、岡山市(旧瀬戸町)生まれ。東京大卒。74年自治省(現総務省)に入り、99年から鳥取県知事を2期。2010~11年に総務相。18年10月から美作大客員教授。

山田啓二・前京都府知事―「官民融合し活力を」

 昨年の新生児は86万人余りで団塊世代の3分の1に減った。少子高齢化の中で地域の未来をどうつくっていくかが課題だ。

 1人世帯と孤独死、空き家が増えている。生活保護は歴史上、最も多い。東京一極集中も進んでいる。20年後、多くの地方都市の人口構成で最も多いのは90歳以上の女性になる。医療・福祉が最大の産業になり、製造業や建設業は減る。

 出生率の向上、格差是正、交流人口対策など、地方の可能性を最大限発揮できる政策が地方創生に必要だ。自治体が手を取り合って地域を守らなければならない。縮小する時代に分権はマイナスもある。都道府県だ、市町村だと言っている場合ではない。

 明治維新で首都が東京に移転した京都では企業や有力層が抜け、人口は35万人から24万人に減ったが、30年で現在の礎をつくった。京都大の前身の第三高等学校を誘致し、琵琶湖から運河を引き、勧業博覧会も開いた。人づくり、イノベーション、交流づくりで切り抜けた。

 社会は活力と安全の低下に脅かされている。一方で今までにない多様な社会を生み出してもいる。ネット社会、年齢、人種、仕事の多様化、LGBT(性的少数者)…。そのままでは荒野のようだが、手をつなぐことで沃野(よくや)に変わる。

 高齢化、情報化、国際化で社会が変わり、ボーダーレスの範囲がどんどん広がっている。官民を区別する時代ではない。住民サービスを基本に官民が融合し、さらに世界とつながり交流する。そういう時代へと再構築できれば人口が減っても怖くない。その新しい時代は誰かがもたらしてくれるものではない。皆さんに切り開いてもらいたい。

 やまだ・けいじ 1954年、兵庫県生まれ。東京大卒。77年自治省(現総務省)に入り、2002年から京都府知事を4期務めた。11年から全国知事会長を7年。4月1日付で美作大客員教授に就任。

(2020年03月27日 16時49分 更新)

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