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呼吸器外し再審 冤罪を招いた検証必要だ

 滋賀県で起きた「呼吸器外し事件」の再審公判が、大津地裁で結審した。検察側は、殺人罪で服役した元看護助手の西山美香さんに対する新たな有罪の立証を断念し、求刑もしなかった。3月31日に予定されている判決で、無罪が言い渡されることが確実な情勢となった。

 求めてきた「名誉回復」が現実となる。しかし、逮捕から15年7カ月もの間汚名を着せられ、自由を束縛されてきた西山さんの失ったものはあまりにも大きい。検察から謝罪の言葉が聞かれなかったのは極めて残念だ。

 2003年、東近江市の病院で入院中の男性患者が死亡し、県警は04年に「人工呼吸器を外して殺害した」と自白したとして西山さんを殺人容疑で逮捕、起訴した。公判で西山さんは否認に転じたものの、懲役12年の判決が確定して服役を終えた。

 大阪高裁は17年の第2次再審請求審で、弁護側が新たな証拠として提出した医師の鑑定書などを基に、不整脈による自然死の可能性や虚偽の自白の疑いを指摘して再審開始を決定。19年に最高裁が検察側の特別抗告を棄却して確定した。

 先日開かれた第2回再審公判では、検察側が論告で「被告が有罪との新たな立証はせず、裁判所に適切な判断を求める」と述べただけで、求刑しなかった。事実上の「白旗」といえよう。

 こうした冤罪(えんざい)がなぜ生まれたのか。どこに責任があるのか。再発防止のためには、検察側がずさんな捜査の検証を行うことが必要だ。論告で過ちを認めなかった態度は不誠実である。

 大阪高裁の再審決定後も、検察側の特別抗告によって再審開始が大幅に遅れた点も問題だ。「特別抗告された時、私たちがどんな思いで過ごしてきたと思うのか」との西山さんの最終意見陳述での言葉が心に響く。

 検察は当初、有罪立証しようとし、途中で方針を変えた。その一因に挙げられるのが、県警が捜査段階で検察にも示していなかった資料の存在だった。

 逮捕前の西山さんが、人工呼吸器を故意に外したことを否定した自筆の自供書や、他殺でない可能性を指摘した医師の所見が記された捜査報告書が非開示のままだった。こうした重要な証拠が、なぜ再審開始決定後まで開示されなかったのかの説明もすべきである。

 判決では、裁判所がそうした冤罪の背景に言及するかどうかも注目される。

 西山さんが警察の取り調べに迎合し、虚偽の自白を生んだ背景には、密室での取り調べと自白偏重の捜査がある。06年に一部で試行が始まり、その後全国に拡大した取り調べの可視化を、さらに進めていくことが重要だ。弁護士の立ち会いの検討も含め、冤罪防止に向けた幅広い対策が急がれる。

(2020年02月13日 08時00分 更新)

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