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検事長の定年延長 官邸介入で中立性揺らぐ

 これでは検察に対する国民の信頼が大きく損なわれよう。前代未聞の定年延長は看過できない。

 今月8日に63歳となり、その前日に退官予定だった黒川弘務東京高検検事長の定年について、政府は半年間延長することを閣議決定した。検事長の定年延長は前例がない。現在の検事総長の稲田伸夫氏が慣例通り、約2年の任期を務めて今夏に勇退すれば、黒川氏が後任に就任する可能性がある。

 検察官の定年は一般の国家公務員とは別に、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳と定められ、定年延長に関する規定はない。

 衆院予算委員会で森雅子法相は、黒川氏の定年延長は国家公務員法を適用し、法的に問題はないとの見解を示した。確かに国家公務員法は公務に著しい支障が生じる場合の勤務延長を認めている。しかし、そもそも職務の特殊性から検察庁法で定年が定められているのに、国家公務員法に立ち戻って規定を適用するとの説明には違和感しかない。野党は39年前の政府見解とも矛盾しているとし、「違法だ」と指摘している。

 定年延長の理由について、森法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため」と説明したが、これも具体性を欠く。法務・検察幹部の多くは閣議決定後に知らされたという。安倍晋三首相は「法務省の人事だ」との答弁を繰り返しているものの、野党のみならず、検察OBからも「検察の歴史的な敗北」「政権が検察組織をあからさまに支配下におさめようとしている」などと批判が噴出している。

 黒川氏は法務省での勤務が長く、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法などの制定にも関わった。2016年の法務次官の人事でも法務省が示した人事案を官邸が退け、黒川氏を昇格させたと報じられている。菅義偉官房長官らの信頼が厚く、政権との距離が近いと評されている。

 「法の番人」と呼ばれる検察はロッキード事件などに象徴されるように政界の汚職にも切り込み、捜査は政権中枢に及ぶこともある。検事総長の任命権は内閣にあるが、検事総長自身が後任を指名する慣例があり、独立性を保ってきた。過去の政権が尊重してきた検察トップ人事への介入は、独立性や中立性を根本から揺るがす。

 検察は現在、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業に絡む汚職事件や、河井克行前法相夫妻が家宅捜索を受けた公選法違反事件などの捜査を進めている。「桜を見る会」を巡る疑惑では、国の予算を私物化したなどとして首相に対する告発状が東京地検に提出されている。

 そうした中で異例の人事介入があったとすれば、政権中枢に捜査の手が伸びないよう意図したのではないかとの疑念を招くことにもなろう。

(2020年02月12日 08時00分 更新)

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