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70歳就業へ法案 働く人の保護に残る懸念

 希望する人が70歳まで働き続けられるよう、就業機会の確保を企業の努力義務とする法案を、政府が国会に提出した。企業の選択肢として定年延長などに加え、起業やフリーランスを希望する人への業務委託や、自社が関わる社会貢献事業に従事させることを盛り込んだ。2021年4月から実施を目指す。

 現行の高年齢者雇用安定法が義務付けているのは、65歳まで希望者全員を雇うことで、選択肢は定年延長と定年廃止、継続雇用制度の導入の三つである。継続雇用制度については今回、自社やグループ企業で雇うだけでなく、他社に転職させることも新たに認める。

 厚生労働省の19年6月時点の調査では、ほぼ全ての企業が65歳までの雇用を制度化しているが、定年の見直しまで踏み込んでいるところは少なく、継続雇用制度の導入が8割近くを占めている。一方、66歳以上が働ける制度のある企業は3割余りだった。

 年齢を重ねても働く意欲が高い人は多い。こうした人たちが活躍する場を得て、社会保障制度の支え手に回ることは、社会にとっても望ましいことは確かだ。多様な働き方を示して後押しすることで、企業の理解も得やすくなろう。ただ、問われるのは実効性である。

 新たな選択肢として示されたフリーランスなどは、最低賃金や労働時間の規制を十分に受けられない恐れがあり、働く人の保護に懸念が残る。

 こうした選択肢は昨年5月、政府の未来投資会議で唐突に浮上した。労使の代表らによる審議会での検討を経ずに閣議決定され、官邸の前のめりの姿勢が目立っている。その後の審議会では、労使から異論が相次いだ。雇用の機会は広がったとしても、劣悪な環境では働く人の保護になるまい。

 高齢者の就労については労災被害に遭いやすいといった心配もある。雇用する側の中小企業の負担軽減対策なども課題になるだろう。ニーズの高まりで将来は法的義務になる可能性も踏まえて、拙速は避けて十分に検証してもらいたい。

 70歳までの就業機会確保は、安倍政権が最大のチャレンジと位置付ける全世代型社会保障改革の目玉政策である。社会保障費の抑制に加え、人手不足の解消も狙っている。ただ、大切なのは雇用だけでなく、年金を含めた老後の生活資金の全体像を国民に分かりやすく示すことだ。

 政府はパートなど非正規で働く人の厚生年金加入を進める年金制度改革関連法案も今国会に提出する。将来の低年金を防ぐため施策の充実も欠かせない。

 年金の支給額は物価や賃金の上昇幅より低く抑える仕組みが実施され、実質的な価値が目減りしていく。困窮する高齢者に対するセーフティーネットをさらに整えることを忘れてはならない。

(2020年02月08日 08時00分 更新)

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