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米の中東和平案 目に余る国際合意の無視

 あまりにイスラエル寄りの内容だ。パレスチナは受け入れられず、実現の見通しが立たないのは当然だろう。トランプ米大統領が先日発表した中東和平案である。

 パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの共生を目指す「2国家共存」こそ堅持するが、占領地ヨルダン川西岸に建設されたユダヤ人入植地についてイスラエルの主権を認める。帰属を争う聖地エルサレムも分断せず、イスラエルの首都とするというものだ。イスラエルの要望はほぼ盛り込んだのに対し、パレスチナには大幅な譲歩を迫った。

 発表に同席したイスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的な日」と歓迎したものの、パレスチナ自治政府のアッバス議長の姿はなく、テレビ演説で和平案を「陰謀」と非難し拒否する姿勢を示した。停滞する中東和平の進展はさらに難しくなった。

 和平案が、積み重ねてきた国際的な合意を無視し、安易に覆してしまったことも目に余る。

 ナチス・ドイツの迫害を逃れたユダヤ人らが1948年にイスラエルを建国し、パレスチナ人は土地を追われた。67年の第3次中東戦争で、イスラエルが東エルサレムやヨルダン川西岸を占領したのに対し、国連安全保障理事会決議は撤退を求め、東エルサレムを独立国家の首都とするパレスチナの意向は国際的に受け入れられてきた。

 今回の内容は、これまで米国と共に交渉を仲介してきた国連への事前説明もなかったという。グテレス事務総長が和平案を認めない姿勢を示したことも無理はない。

 米国の歴代政権はイスラエルを擁護しながらも、仲介役を演じてきたが、トランプ氏はイスラエルに肩入れし、その役割を捨てたと言わざるを得ない。

 政権発足から1年足らず後の2017年末、エルサレムをイスラエルの首都と認め、多くの国が懸念する中、翌年5月に米大使館をテルアビブから移転させた。間もなく、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出中止も発表した。

 今回の和平案も実現が難しいと予測しながら、イスラエルに親近感を覚える米国のキリスト教保守派の意向を踏まえたとの指摘がある。11月の大統領選に向けた票固めの狙いは明らかだろう。

 中東和平の行方が一層、混沌(こんとん)としたと言える。アラブ諸国の支持を得るため、トランプ政権はイランに立ち向かうための連携を持ち出した。アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーン、オマーンの駐米大使が発表に出席し、対イランで米国を頼るサウジアラビアも「努力に感謝」と表明した。一方、ヨルダンやトルコは強く反発し、新たな分断が生まれた格好だ。

 パレスチナ問題を巡っての場当たり的な政策は米国に対する信頼を損ね、地域を混乱に陥れるだけである。

(2020年02月02日 08時00分 更新)

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