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岡山とポートランドのまちづくり(下) まちづくりに必要なものは?

岡山とポートランドのまちづくりについて話すサウミャさん
岡山とポートランドのまちづくりについて話すサウミャさん
サウミャさんが説明する岡山のマップ
サウミャさんが説明する岡山のマップ
みんな岡山のまちづくりに熱心だ
みんな岡山のまちづくりに熱心だ
岡山市の緑地率の図と西川の様子
岡山市の緑地率の図と西川の様子
 サウミャさんは、ポートランドに続いて、岡山市中心市街地のまちづくりを分析した。岡山市の良いところは、人が交流しやすいほどほどの規模、すなわち、コンパクトなまちだ。例えば、自然や農地が近くにあり、旭川や後楽園も美しい。また、徒歩や自転車も使いやすく、日常的なものが手の届く範囲にある。しかしながら、ポートランドの視点から考えると課題もわかりやすいようだ。

 大きな課題は、まちの拠点同士が、歩行者にとって連結できていない点だ。表町、岡山駅、イオンモールを含めて歩行者が回遊する仕組みが十分ではない。この状況では、東京から進出したテナントに人が集まり、地元のビジネスに市民はアクセスしづらくなる。加えて、県庁通りでは一車線化や自転車のネットワークを整備しているのは良いことだが、歩行者道や自転車道が車道に面しているため、そのパフォーマンスも十分に発揮できていない。子どもやお年寄りにとっては、車道が与えるストレスは大きく、安全性をさらに考慮すべきだと提案があった。

 筆者が驚いたのは、サウミャさんによる中心市街地の緑地空間分析だ。彼女によれば、岡山市中心市街地の緑地率は4.3%と極めて低く、ほとんどが西川緑道公園に集中しているそうだ。一方、ポートランドでは、現在12%から33%に高めようとしており、緑はまちのインフラとして位置づけられている。

 それでは、西川緑道公園のまちづくりには今後どのような対策が取られるべきなのだろうか。イベント時には、にぎわいが生まれているが、平日では人はまばらだ。その理由には、車の交通量が増えるほどに、質の高いパブリック・スペースの要素である安全と安心が弱まってしまうからである。ただし、サウミャさんは、西川緑道公園ではパートナーシップの強化が続けられた点に評価を置くべきだとする。

 「西川緑道公園では、市民や行政との間で新たな信頼関係やネットワークができました。そして、西川パフォーマー事業など公園を使うルールが柔軟になりました。イベントがしやすくなり、公園とエリアの魅力が向上しています。36人の聞取り調査で分かったことがあります。多くの人は、イベントができることを若い人に伝えたい、コミュニティと行政がコミュニケーションできるようになったと言います。そして、イベントの情報発信、ブランド力の向上や、公園のメンテナンスを行政と一緒に力を入れたいという意見が多かったのです」

 西川緑道公園のまちづくりが次のステップに進むには、二つの挑戦をするべきだとサウミャさんは語る。

 「一つ目は、市民と行政のパートナーですが、長期的な持続性に不安があります。ボランティア活動には限界があって、予算と人材が必要になっています。もう一つは、人と団体が西川のまちづくりにかかわっていますが、大きなビジョンができていません。それぞれが、自分たちの考えの中で西川を良くしようとしていますが、それらをまとめるビジョンや大きな目標がないという課題があります。でも、どういう西川にしたいのかという質問には大きな違いはないようです」

 市民が西川に望んでいるのは、日常的に人が歩いていること、過ごしやすい雰囲気があること、憩いの場になっていること、空間の統一性などパブリック・スペースの過ごし方に集約される。今回、サウミャさんの発表の全てを紹介できないが、彼女の提案は以下のようなものだ。

 「一年という短い滞在で学んだのは、西川は水と緑の憩いの場として大事なパブリック・スペースであり、でも、公園が完成してからずっとまちづくりの拠点になっていて、シンボルになっています。しかし、歩行空間が車に分断されていて滞在行為を育んでいません。良かったことは、行政とコミュニティがパートナーになって、公園活用の改善が見られました。次の段階に進むためには、予算、人材、共通したビジョン、戦略が必要になってきます」

 サウミャさんの目に映る岡山のまちづくりは、一歩、一歩頑張る人たちの姿から構成されている。そのため、岡山への応援を含めて、さわやかでとても暖かいメッセージが含まれている。地方のまちづくりは、個人の負担が大きく、一方、なかなかほめてももらえない。努力家であるサウミャさんの言葉に勇気づけられた人は少なくはないだろう。

 筆者はサウミャさんと話しながら、次のことを考えた。私たちは住みやすいまちを造っていきたいという気持ちで繋がっているのだから、その気持ちの輪郭を明確にすれば良い。そこから、ビジョンづくりは始まるのだ。市民、行政、企業、団体は、まちづくりの話し合いをもっと楽しく、時間をかけてこなすべきだ。2019年度のまちづくりが活発であったのは、その輪の中にサウミャさんがいたからだ。

 90分を超える発表会はあっという間に過ぎた。思い起こしてみると、筆者が、サウミャさんに出会ったのは2014年2月のことであった。彼女が岡山大学にやってくるまで6年もの歳月をかけ、岡山のまちづくりも少しずつ前進してきた。2019年1月に岡山大学にやってきたとき、実は2回目の顔合わせであったが、サウミャさんはチーム岡山の一員として、やるべき調査は固まっていた。筆者が諸所でサウミャさんを紹介すると、「日本語のレベルも先生と変わらないばかりか、先生とは違ってしっかり挨拶ができる分、立派ですね」と激励の言葉ももらい、一緒に研究する時間は何よりも楽しかった。研究室には、西川緑道公園の資料が山積しているが、それを丁寧に読み込んだのもサウミャさんただ一人だ。

 ポートランドから日本のまちづくりを研究に来てくれたのを私たちは誇りに思い、世界に向け発信していきたい。サウミャさんとジョニー・フェインさんが日本を離れても、チーム岡山の永久会員としてまち全体を盛り上げていきたい。だから、いつでも戻ってこられるように、岡山のまちづくりが輝いたものにしておかなければならない。最終講義は、サウミャさんに行ってらっしゃいの気持ちで臨んだ。サウミャさんとジョニーが自転車で走る姿は、岡山の風景として既に溶け込んでいる。先生としては、いつ帰ってきてもウェルカムです。

 ◇

岩淵 泰(いわぶち・やすし) 岡山大地域総合研究センター(AGORA)助教。都市と大学によるまちづくり活動に取り組む。熊本大学修了(博士:公共政策)。フランス・ボルドー政治学院留学。カリフォルニア大学バークレー校都市地域開発研究所客員研究員を経て現職。1980年生まれ。

(2020年01月24日 12時50分 更新)

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