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介護施設の虐待 認知症への理解広めねば

 介護が必要な高齢者への虐待がまたも過去最多を更新した。特に、特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、専門的なケアが期待される介護施設で増加が目立つことは憂慮すべき事態だ。厚生労働省が発表した2018年度の調査結果である。

 06年施行の高齢者虐待防止法に基づき、通報を受けた自治体が虐待と判断した件数などを昨年末にまとめた。施設の職員による虐待は621件で前年度より21・8%増え、調査開始以来、12年連続の増加となった。もう一つの家族らによるケースは前年度比1・0%増の1万7249件で、6年連続の増加だった。

 職員による虐待の種類は、暴力や拘束といった身体的虐待が6割弱を占め、暴言を含む心理的虐待や介護放棄が続いた。約3%に当たる20件は過去にも虐待があった施設で起きており、改善の難しさを示した。都道府県別は東京の65件が最多で、岡山は7件、広島11件、香川5件だった。

 高齢者の尊厳を踏みにじる虐待が許されないことは言うまでもない。背景には介護の需要が高まる一方、深刻な人手不足による職員の負担増があるとされる。社会的な関心が高まり、通報が増えている面もあるとはいえ、近年の増加ぶりは看過できない。

 関心が高まったきっかけの一つは、川崎市の老人ホームで14年、入所者3人が相次いで転落死した事件だ。殺人罪に問われた元職員は一審で死刑とされ、先月控訴審が始まった。

 深刻な事例は後を絶たず、昨年5月には東京の老人ホームで入所者を暴行して殺害したとして、元職員が殺人の疑いで逮捕された。こうした例は施設や介護サービスへの信頼を揺るがしかねない。

 今回の調査では、施設で虐待を受けた被害者の8割超が認知症の人という実態も浮かんだ。加害者は若い職員が多く、虐待の原因は「(職員の)教育・知識・介護技術に関する問題」が58・0%と最も多かった。

 認知症は暴言や徘徊(はいかい)、意思疎通の難しさなど特有の症状がある。その対応に理解を深める研修の充実や、認知症の人と接した経験が多いベテラン職員との連携が大切だ。

 認知症の人は団塊世代全員が75歳以上になる25年、高齢者の5人に1人に当たる約700万人に達すると推計される。対策は急務である。

 無論、職員の処遇改善など一層の人手確保策は欠かせない。清掃や配膳を手伝う補助的スタッフを増やし、介護福祉士らの負担を減らすことなども検討すべきだろう。国と自治体が各施設での取り組みを後押ししてもらいたい。

 一方、家族による虐待は、原因として介護疲れやストレスが目立つ。悩みを相談できる場を自治体などが積極的に確保することが求められる。相談から介護サービスの利用などにつなげて、介護者の孤立と疲弊を防いでほしい。

(2020年01月20日 08時00分 更新)

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