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やまゆり園公判 凶行を生んだ背景に迫れ

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、多数の入所者が殺害されたり重軽傷を負ったりした事件の裁判員裁判が始まった。19人が刺殺され、職員2人を含む26人が重軽傷を負った惨劇は、発生から3年半たった今も犯人の男がなぜ凶行に至ったのか十分に解明されたとは言えない。事件の背景に迫れるかが大きな焦点となる。

 事件は2016年7月に起きた。数カ月前まで同園に勤めていた植松聖被告が未明の施設に刃物を持って侵入し、犯行に及んだ。「意思疎通のできない人は不幸を生む」「社会からいなくなった方がいい」といった身勝手な動機は社会に衝撃を与えた。

 殺人罪などに問われた被告は、入所者らを殺傷した事実は認めている。このため裁判では、犯行当時の刑事責任能力の有無や、その程度がどうだったかが争点となる。

 先週行われた初公判で検察側は、殺害の実行に備えて体を鍛え、職員が少ない時間帯を狙うなど犯行は計画的で責任能力はあったとした。一方の弁護側は、大麻を長期的に常用したことによる大麻精神病などで本来の人格ではない別人になっていたとし、善悪を判断し、行動をコントロールする能力がなかったとして無罪を主張した。

 2回目の公判では、被告が夜勤職員を拘束して入所者の部屋を連れ回し、入所者一人一人について、しゃべれるか尋ねた上で刺すかどうかを決めていたという生々しい犯行の様子も明らかにされた。ゆがんだ障害者観がどのように生まれ、暴発に至ったのか。被告の生い立ちや3年余りにわたる施設での勤務状況なども踏まえて丁寧に審理し、真相に迫ってほしい。

 被害者遺族や家族にとっては、被告の口からどんな言葉が語られるかに大きな関心があろう。初公判で被告は、謝罪の思いを述べた直後に、自分の指をかみ切ろうとする動きをして退廷させられる騒ぎがあった。来週から始まる被告人質問の中で、被告が事件と真摯(しんし)に向き合うかどうかが注目される。

 今回の裁判では、ほとんどの被害者が氏名を伏せて「甲A」「乙B」などと匿名で審理され、家族らが座る傍聴席はついたてで仕切られるといった異例の手法がとられた。「家族が特定されたら何が起きるか不安」といった家族らの思いをくんだ措置である。ただ、何の落ち度もない被害者側が名前を隠して公判に臨まざるを得ないことは、社会に障害者への根強い偏見があることを物語っていよう。

 事件が起きた後、インターネット上には障害者を排除しようとする被告の考えに賛同する書き込みがなされた。社会の役に立つかどうかや、「生産性」といった尺度で人が測られるような風潮が存在することも事実だろう。今回の裁判は、共生社会の実現に向けて社会全体に対する問い掛けともなろう。

(2020年01月16日 08時00分 更新)

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