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耐性菌の被害 抗菌薬の適正な利用図れ

 事態の深刻さを示すデータだ。抗生物質(抗菌薬)が効かない「薬剤耐性菌」によって死亡した人が2017年、国内で8千人以上に上ったという推計を国立国際医療研究センター病院(東京)などの研究チームがまとめた。耐性菌の死者数を全国規模で調べた研究は初めてという。

 薬剤耐性菌は遺伝子が変異して、感染症の治療に使われる抗菌薬が効かなくなった細菌である。複数の薬に耐性を獲得した多剤耐性菌も報告されている。健康な人に影響を及ぼすことは少ないものの、高齢者や免疫の落ちた人が感染すると、重症化して死亡する恐れが高まる。

 研究チームは日本で検出の多いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌の2種について、全国の協力医療機関のデータを基に先月、推計死者数をまとめた。

 他の菌も合わせれば死者数は1万人を大きく超えると指摘する研究者もいる。新薬の開発に加えて、医師が治療に使う薬の選択の在り方について議論する必要もあろう。

 耐性菌は抗菌薬の使い過ぎによって生まれやすくなるとされるためだ。被害を減らすためには、不必要な抗菌薬の使用を減らすことが重要になる。無駄な医療費の削減にもつながる。

 90年余り前に発見されたペニシリン以来、抗菌薬は多くの命を救ってきた。だが、例えば多くの風邪はウイルスが原因で、抗菌薬は効かない。安易な処方や、医師の指示を守らない不適切な服薬を防ぐことが課題だ。風邪のシーズンを迎え、国や自治体は啓発を図り、医療者や患者も適切な服薬に努めたい。

 国は抗菌薬の適正使用を推進する病院を診療報酬で優遇するなど一定の対策は進めてきた。しかし、中耳炎や尿路感染症といった比較的ありふれた病気が耐性菌によって治りにくくなったとの報告も増えているという。対策にさらに力を入れねばならない。

 耐性菌は人のほか、家畜や食品、水、土壌からも見つかっている。家畜の成長を促す飼料添加物として抗菌薬を利用していることとの関連も指摘されている。動物や環境にも目を配った総合的な対策が求められる。

 耐性菌対策が課題なのは日本だけではない。米国は年3万5千人以上、欧州は3万3千人が死亡しているとの推計が発表されている。

 対策を怠れば2050年には世界で年1千万人が死亡するいう予測もある。世界保健機関(WHO)なども対策に乗り出している。

 これを受け、岡山市で昨年10月にあった20カ国・地域(G20)保健相会合でも、耐性菌対策はテーマの一つとなった。採択された「岡山宣言」には新薬の研究開発やワクチンによる予防を後押しすることが盛り込まれた。政府は各国と連携し対策を進めてもらいたい。

(2020年01月12日 08時00分 更新)

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