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WTO 機能不全の回復が急務だ

 各国間の通商紛争を解決するために設けられている世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥っている。裁判の「最終審」に相当する上級委員会で裁判官役を務める委員の補充が米国の反対で行われておらず、審議がほぼできなくなっているためだ。1995年のWTO発足以降、初めての異常事態である。

 WTOは世界の多角的な自由貿易体制を支える重要な柱だ。紛争処理の機能がまひしたままでは、自国優先の保護主義的な動きが今以上に広がって、公正な貿易が阻害されてしまう恐れがある。上級委が早期に機能を回復するよう、加盟国全体で問題解決に取り組むことが求められる。

 WTOは貿易ルールの策定や交渉、通商紛争の解決を担う国際機関で、164カ国・地域が加盟している。輸入規制や高関税を巡る対立が当事国による協議で収まらない場合、紛争処理小委員会(パネル)が設置され、国際通商法の専門家らが「裁判官」となって審議する。パネルの判断に異議があれば、当事国は上級委に訴えることもできる。

 上級委の定員は7人だ。だが、トランプ米政権は、上級委による新ルールの策定といった「越権行為」が許容できないなどとして、2017年8月から委員の補充に反対し続けている。WTOは全会一致が原則のため、委員は任期切れに伴って減り続けており、今月中旬からは審議に必要な3人を下回る1人だけとなった。

 上訴中の14案件のうち、審議が進んでいる4案件に限り、任期切れとなった委員らで審議は続けられる。だが、残る10案件と、新規に上訴される案件は、新たに委員が就任するまで審議できない。

 WTOを巡っては、01年に始まった新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は、先進国と新興国との対立などで停滞したままとなっている。紛争処理の機能がまひ状態に陥ったことは、自由貿易体制を支えるWTOの存在意義を揺るがす事態といえよう。

 トランプ政権は昨年、鉄鋼とアルミニウムの大量流入が国家安全保障上の脅威になっているとして高関税を課す輸入規制を発動した。また、中国は、国家発展戦略「中国製造2025」に基づき、自国企業に補助金を出して輸出などを支援し、公平な競争をゆがめていると指摘される。

 WTOの機能不全が続くようなら、こうした保護主義や自国第一主義が今後、一段と強まる事態も懸念される。国際ルールを無視した大国による強引な通商措置が横行すれば、世界経済の秩序や安定は危うくなる。

 世界最大の経済大国である米国が、公正な自由貿易体制の形成に重大な責務があることを自覚すべきだろう。機能不全に陥っている事態の打開へ向け、日本を含めWTO加盟各国は連携し、米国に対する働き掛けを強めることが欠かせない。

(2019年12月29日 08時00分 更新)

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