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剣劇や大衆演劇で隆盛を極めた新…

 剣劇や大衆演劇で隆盛を極めた新国劇の創立者、沢田正二郎の言葉だという。「人を斬る時は、こいつにも母親や女房子供がいると思って斬れ」。この人の殺陣はさぞやすごみがあったろう。そう向田邦子さんがエッセーに書いている▼大根や人参(にんじん)を切るように斬るのではない。相手も同じ人であり、親兄弟やほれた女がいる。死にたくないと思っている人間だと思えば、斬るときの刀の重みと心の痛みも違ったものになる、と。相手の人生全てを斬る覚悟なしに殺陣に命は吹き込まれないのだろう▼命を落とし、傷つく人がいて、それを悲しみ嘆く人がいる。戦争や暴力に限らない。日常的な職場のいじめ、パワハラも同様である▼上司が執拗(しつよう)に部下を追い込む。ばか、のろまと罵声を浴びせる。そんな「する」側の目には「される」側の人生は何ら映っていまい。仕打ちの先にわが子がいても同じことができるのか▼先日も三菱電機の新入社員だった20代男性が自殺し、教育主任の社員が書類送検されたことが分かった。神戸市の小学校の教師いじめ、山口県の消防署やトヨタなど大手企業のパワハラも明るみになった。無念の遺族会見もあった▼国はようやく11月、パワハラ防止の指針をまとめた。学校で「いじめ」はだめと言いながら、大人の社会は有効策を打ち出せない。良いはずがない。

(2019年12月10日 08時00分 更新)

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