山陽新聞デジタル|さんデジ

「さよならの季節」という一文が…

 「さよならの季節」という一文が倉敷市出身のエッセイスト、平松洋子さんにある。通っていた立ち食いそば屋の閉店を惜しんだものだ▼東京のJRの駅近く。ガード下の壁にへばりつくような狭い店だったという。紺色ののれんをくぐると、カウンターに5席。その向こうで店主とお母さんが満面の笑みで迎える。おいしさだけではなく、そんな光景も書き留めている▼「頭上を電車が走り抜ける音。背後を車が通る音。そばを啜(すす)っていると、薄暗いガード下で昭和の時間に照らされる」。味とともに刻まれている記憶は多くの人にあろう▼さよならの季節が近づいている。玉野市・宇野港と高松港を結ぶ宇高航路である。さかのぼれば宇高連絡船の誕生からおよそ110年。唯一残るフェリーが16日から運航を休止する▼忘れられないのが、船上で食べたうどんだ。先日、久しぶりに乗った際も求めた。穏やかな海や島影を眺めながらすすると、友人との旅行の楽しい思い出が戻ってきた。別れを惜しむかのように船上からの風景を撮影する人も多かった▼冒頭の一文を収めた著書で、平松さんは手作りの総菜を並べて夫婦が仲良く売っていた地元の店などを思い出して、こう締める。「さよならは交(かわ)しても、街の記憶はいつまでも残り続ける」。幾多の人々に刻まれた航路の記憶も同じだろう。

(2019年12月07日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ