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中村哲さん殺害 決して許されない蛮行だ

 「貧しい人たちのために命懸けで活動していた。日本人にとって『救い』のような存在だった」。一緒に本を制作し、講演するなど親交のあったノンフィクション作家沢地久枝さんが共同通信の取材にそう悼んでいる。

 おととい、アフガニスタンで殺害された福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」現地代表の医師中村哲さん(73)である。同国への多大な貢献に凶弾で報いるとは理不尽と言うほかない。決して許されない蛮行だ。

 中村さんは1984年からアフガンやパキスタンの国境地帯などで貧困層への医療支援を行い、2000年にアフガンで大干ばつが起きてからは、用水路を建設し緑化に取り組んだ。長年の活動に住民の信頼は厚く、「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受けるなど国際的な評価も高かった。10月にアフガン政府から名誉市民権を授与されたばかりだった。

 浅口市で8月、同市在住の支援者が企画して開いた帰国報告会では「1日3度の食事ができ、故郷で家族と一緒に暮らせるというアフガンの人たちの夢をかなえるため、今後もこつこつと活動していきたい」と話していた。その熱い思いは突然断たれた。

 中村さんらが乗った車は武装した男らに銃撃され、ボディーガードや運転手ら5人も死亡した。襲った男は4人前後とされる。

 アフガンでは08年にもペシャワール会の日本人スタッフが武装勢力に襲われ、死亡する事件が起きている。中村さんは武装した警備要員を付けるなど安全には注意していたという。だが、襲った集団は中村さんの車を待ち伏せしており、通行ルートを事前に確認した上で、強い殺意を持って襲撃した計画的犯行の疑いが強まっている。地元当局は厳正に対処してもらいたい。

 改めて思い知らされたのが、いまだに和平が実現しないアフガンの現実だ。反政府武装勢力タリバンのテロがやまず、弱体化が指摘されるが過激派組織「イスラム国」(IS)も活動している。

 今年7~9月に戦闘などに巻き込まれた民間人の死者は1174人、負傷者は3139人と、3カ月間の死傷者数として最悪となった。和平に向けた動きを見せるトランプ米政権とタリバンの早急な合意締結が望まれる。

 治安が安定しない中、日本のNGOは丸腰で現地に入って活動し、信頼を得てきた。「貧困層の中で清貧を貫いた中村さんは、そんな日本を象徴する人物だった」と、フリージャーナリストの安田純平さんは言う。同時に今後、現地入りへの日本政府の規制が強まることを懸念している。

 紛争地支援での安全対策の難しさが今回、再び浮き彫りになったことは確かである。警戒を強めつつ、危険を顧みず信念を持って活動した中村さんの遺志を受け継ぐことが大切だ。

(2019年12月06日 08時00分 更新)

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