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「まばゆい小麦の若芽が一面に広…

 「まばゆい小麦の若芽が一面に広がる。鳥たちが舞い、水辺の草地で羊たちが憩う。ここが本当に何もない砂漠だったのか、キツネにつままれたようだ」。8年前の本紙に載った医師中村哲さんのエッセーの冒頭である▼アフガニスタンで農業支援などに取り組んできた。25キロに及ぶかんがい用水路を造り、砂漠が広大な緑野に生まれ変わった喜びが伝わる。おととい、襲撃の銃弾に倒れた▼1984年にパキスタンでハンセン病患者らへの医療活動を始めた。アフガンへと支援先を広げ、診療所の開設をはじめ、飲料水確保のための井戸掘り、農業を再生し貧困から脱するためのかんがい事業などを続けてきた▼内戦やテロなど身の危険と常に隣り合わせ。一貫していたのは、人々に寄り添う姿勢だった。「現地の人々の望むことを一緒に実現していく、そのことが私たちを守るのだと思っています」と自著「アフガニスタンで考える」で語っている▼専門外の河川工学を一から学び、高価な機械がなくても、現地の人が管理や補修をできる工法を考えた。つるはしを振るい、重機を操って工事を先導した。「平和に武器は要らない」ことをわが身で示した▼昨年はアフガン政府から勲章を、今年10月には名誉市民権を授与された。政情不安が続くアフガン。高潔な命が奪われた惨事に胸が詰まる。

(2019年12月06日 08時00分 更新)

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