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ストーカー行為いまむかし

恋愛感情に端を発し待ち伏せや監視行為、度重なるメール送信などを繰り返すストーカー。歴史をひも解くと、古くから同様の行為があったことが分かります
恋愛感情に端を発し待ち伏せや監視行為、度重なるメール送信などを繰り返すストーカー。歴史をひも解くと、古くから同様の行為があったことが分かります
 男女間トラブルは現代に限ったことではないのは想像できますが、昨年から始めたストーカー被害の調査をきっかけに、その歴史に興味をもち、少し調べてみたのでご紹介しましょう。

 日本でそれに相当すると思われる昔話として、「安珍清姫物語」があります。さまざまな解釈があるようですが、恋人関係になった後、相手が去ったことを受け入れられず相手を追いかけて最終的に殺してしまう逸話として有名です。

 どんな話かというと…平安時代の928(延長6)年、安珍という名の僧が、熊野に向かう修行の途中に出会った清姫と恋仲になり愛を誓い合いました。しかし安珍は次第に清姫を疎ましく感じるようになり、何も告げずに去ってしまいました。裏切られたと気づいた清姫は、すぐさま安珍の後を追いかけ、その体をいつしか蛇へと化身し、紀州道成寺の鐘の中に逃げ隠れた安珍ごと巻き付いて焼き殺しました。
 
 江戸時代には、男女関係の終了後、男性が女性への付きまといを抑制するための文書が存在していたことがわかっています。法制史学者の高木侃氏によれば、未婚の男女関係の解消や、未婚の女性に対する一方的な恋愛感情を防止するために「執心切れ一札」という私文書が作成される慣習があったといいます。この文書には、自分の名前と相手の名前、そしてこの先関係の復活を求めることや、付きまとい行為をしないことを制約することが記載されていました。さらにこの文書作成に当たっては、集落の若者たちが立会人を務めていたようです。その理由は、この種の問題が二人だけで解決できない場合もあり、村の仲間たちが一部始終を見届けることで、その後の付きまとい行為への抑止力となっていたようです。

 平成の時代には「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」や「ストーカーと呼ばないで」といった歌がちまたに流れ、同じマンションに住む男性のごみをあさって彼の生活を探る女性を描いた「東京ゴミ女」(2000年)、主婦が美容師から営業メールをもらったことを契機に頻繁に来店し、美容師の住むアパートを見つけ出して頻繁にベルを押し続ける主婦を描いた「だれかの木琴」(2016年)など、歌、映画やドラマの中でストーカー行為をする人物が取り上げられることは珍しいとは言えない状況になりました。

 ストーカー行為が身近に感じると同時に、警察へのこの種の相談が増えています。警察庁によるストーカー事案の相談状況を見ると、2013年以降は2万件を超える高い水準で推移しており、18年は2万1556件にのぼっています。

 警察にお世話ならないと解決できない男女間のもつれが日本でこんなに起こっているとはにわかに信じがたいですが、この研究を始めてからはその多さを実感しています。科学技術は進んでも、男女間のトラブルは普遍的のように思いますが、警察官が介入しないと解決できない二人の絆を見るにつけて、人の心の複雑さを日々感じるこの頃です。

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 小畑千晴(おばた・ちはる)岡山県立大客員准教授。臨床心理士。武庫川女子大学大学院修了後、岡山大学男女共同参画室助教。ドメスティックバイオレンス、摂食障害、女性の両立問題などをテーマに研究を行う。2016年~18年度は徳島文理大学心理学科准教授。1973年岐阜県生まれ。

(2019年12月04日 15時55分 更新)

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