山陽新聞デジタル|さんデジ

この地に生きる(16)鳥越梓さん(33)=津山市 こだわりのイタリアンを提供するレストランのオーナー

鳥越梓さん
鳥越梓さん
シェフの豊岡さん(手前左)とレストランを切り盛りする鳥越さん。柔らかな光に包まれた店内には楽しそうな声が響く
シェフの豊岡さん(手前左)とレストランを切り盛りする鳥越さん。柔らかな光に包まれた店内には楽しそうな声が響く
 柔らかな光に照らされたテーブルに、ほどよい間合いでコース料理が運ばれてくる。

 濃厚なチーズの香りが漂うマッシュルーム入りリゾットはライスに少しだけ芯を残す、絶妙な味わい。辛みの少ないタマネギとほくほくのジャガイモを添えた焼いた黒豚は、肉のうま味が口いっぱいに広がる。

 香り高いワインが注がれたグラスの音と、笑い声が響くレストラン「Amore(アモーレ)」は、津山市中心部の本町三丁目商店街にある。鳥越梓(とりごえ・あずさ)さんとシェフの豊岡賢至さん(39)=鉄砲町=が切り盛りする。シェフが選んだこだわりの食材をうまく組み合わせたイタリアン中心の料理は、口コミなどで着実にファンを広げている。

 ランチ、ディナーとも予約制にしているのは、しっかりした準備と接客で「お客さまに『また行きたいな』と思ってもらえたら」という鳥越さんの思いからだ。

 料理の世界には縁がなかった。地元の津山商高を卒業して勤め始めた小売店を、わずか1週間で退職してしまい「来客を待ち、時間を持て余すのが自分には合わなかった」と振り返る。

 20歳で結婚し、長女が誕生。ボウリング場などでアルバイトをしながら子育てした。

 進む方向は突然、決まった。25歳のころ、友人に誘われて訪れた津山市内のレストランで豊岡さんの料理を初めて食べ「今まで出合ったことのないおいしさに衝撃を受けた」。アルバイトを辞め、弟子入りを志願した。

 「これ、と思ったら走る。ただ、能天気なだけ」と語る行動力で約2年間料理を学び、2014年に本町三丁目商店街の今とは別の場所に店をオープン。一人で開くつもりだったが、「自分にない接客技術や感性の鋭さを持っている。一緒にいれば面白いことができるかも」と豊岡さんが加わってくれた。

 一昨年、現在地に今の店となる2号店を出店。開店から6年目に入り、県外からAmoreを目当てに訪れる人も増えてきた。5月には認知症の人が接客する県内初の「注文をまちがえるかもしれないレストラン」の第1回に店舗を提供。祖母が認知症だったことや「若年性認知症の人が働ける場を広げるためにもなる」と考え、協力したという。

 店を出した直後は、豊岡さんとメニューや店のスタイルなどについて衝突することもあった。だが、お互いに言いたいことを言い、「自分も楽しく、お客さんも楽しく」という軸が見えたことでコンセプトは固まった。

 「信念は曲げないことが大切」と話す鳥越さん。「来た人の記憶に残るレストランにしていきたい。カラオケ喫茶やオーベルジュ(宿泊機能付きレストラン)みたいなものにも挑戦してみたい」。夢はますます広がっている。

(2019年11月07日 09時08分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ