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この地に生きる(13)岡本健太郎さん=津山市 猟師の日常、自身モデルの人気作で知られる漫画家

自宅の仕事部屋で創作に励む岡本さん
自宅の仕事部屋で創作に励む岡本さん
(C)岡本健太郎
(C)岡本健太郎
 銃を構えてウサギやキジバトを狙い、自作のわなでイノシシやシカを捕る。個性豊かな猟師仲間や地域の人との笑いあり、涙ありのエピソードが、親しみやすいタッチと緻密な描写で描かれている。

 代表作「山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記」(講談社)の主人公は、実際に狩猟免許を持つ岡本健太郎(おかもと・けんたろう)さん自身がモデルだ。実体験に基づくストーリーは好評を博し、続編の「山賊ダイアリーSS」を合わせた単行本8巻の発行部数は累計80万部以上。書店員らが選ぶマンガ大賞にノミネートされ、影響を受けて猟をするようになった若者らもいるという。

 「田舎出身ということを他の人と違う個性だと気付けたことと、近所のおじいちゃんの存在が大きかった」

 ヒット作を出せたのは、生まれ育った勝央町での体験が大きい。子どもの頃、近くに住んでいたおじいさんから釣りの仕方やわなの作り方、動植物の名前などを教わり、野山を駆け回っていた。

 高校卒業後、津山市内の書店勤務などを経て、市内に拠点を置きながら知人のつてで漫画家アシスタントに。「本格的に漫画を描いたことはなかった」ものの、間もなく青年漫画雑誌に投稿したギャグ漫画が賞を獲得し、24歳でデビューした。

 数年間、津山での活動を経て「勝負したい」と上京。ギャグ路線で週刊誌に連載を持ったが打ち切りとなった。漫画家として進退を考える中で、頭に浮かんだのが古里の風景だった。

 「挑戦してみたいと思っていた」というエッセー漫画のジャンルで山賊ダイアリーを描こうと、10年ほど前に帰郷した。

 狩猟免許や銃の所持許可を得て、野山を歩くこと約2年。数々の経験をネタとして蓄えた。「東京から戻って急に猟師になって家族は心配したと思うが、絶対財産になると思い込んでいた」

 その予感は現実となり、「イブニング」(講談社)で2011年に始まった連載は16年までに100話を載せた後、続編をスタート。「近所のおじいちゃん」は老ハンターとして作中に登場させた。

 山賊ダイアリーで培ったノウハウも生かし、飛行機の事故で無人島に漂着した女子高校生4人のサバイバル生活を描いた「ソウナンですか?」で原作を担当する。「週刊ヤングマガジン」(講談社)での連載は3年目に入り、アニメ化もされた。

 狩猟を続けながら自宅で仕事をする暮らしは、充実している。出版社への持ち込みや原稿のやりとりなどで、東京や大阪といった大都市圏の方が都合が良いことが多かったが、インターネットなどの普及で不便さを感じることはないという。

 「都会に出ることをネガティブには思わないが、都会じゃないとできないことは減っている」。東京を知ったからこそ、そう思う。

(2019年10月30日 09時14分 更新)

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