山陽新聞デジタル|さんデジ

この地に生きる(4)玉井友里子さん(36)=美作市 過疎地の診療所で在宅医療に取り組む医師

玉井友里子さん
玉井友里子さん
高齢者を往診し、体調の変化や生活の様子を尋ねる玉井さん(左)
高齢者を往診し、体調の変化や生活の様子を尋ねる玉井さん(左)
 「最近は歩かれてますか」「手の腫れが引いてきましたね」。美作市南端の上山地区。玉井友里子(たまい・ゆりこ)さんは1カ月ぶりに藤田卓さん(80)方を訪れ、ほほえみながら声を掛けた。

 血圧と体温を測定し、聴診器を当て健康状態を確認。骨折の疑いがある手の診察をどの医療機関で受けるか、相談にも乗った。

 玉井さんは約200人が暮らす過疎の上山地区でたった一人の医師。地区には路線バスも鉄道もない。「車の運転もできないので先生だけが頼りです」。藤田さんは感謝の言葉を口にした。

 「『子どもが熱を出した』と電話が入れば、深夜でも家を飛び出していく父に憧れた」

 玉井さんは奈良県出身。内科の開業医だった父の背中を見て育った。大阪医科大6年の時に総合診療に出合い、父が取り組んでいた医療に最も近いと確信した。

 総合診療は、患者の体と心、患者を取り巻く環境などを把握し、介護や福祉とも連携して患者を支えるのが理念。2013年、それを作州地域で実践している湯郷ファミリークリニック(美作市湯郷)に赴任した。

 しかし、湯郷でのアパート暮らしは物足りなかった。回覧板が届かず、ごみ拾いや草刈りがいつあるかも分からない。「もっと地域に溶け込みたい」。もやもやとした感情を抱いていた。

 そんな時、週末を中心に県内外から上山にやって来て棚田再生に取り組む「NPO法人英田上山棚田団」のメンバーと知り合った。一緒に稲作をしたり、カフェの運営を手伝ったりしながら住民と交流を深めるうちに、上山に住みたいという思いが強くなった。

 空き家を改修した「上山診療所」を14年5月に開設し、移住した。現在は、湯郷ファミリークリニックで週4日、英田診療所(同市中川)で週2日勤務し、上山では週に1度、診察と往診を行っている。

 高熱が出た子どもを抱えて駆け込んでくる人もいれば、うつ病など心の病気に悩む人もいる。「最近、お金の計算ができなくなった」とこぼす認知症のお年寄りもいる。あらゆる疾患を診ることが総合診療のやりがいであり、難しさでもある。

 「地域を支えている一員になれていることが何よりうれしい」。診療の合間を縫って、棚田団の活動だけでなく、地区の溝掃除などにもほとんど欠かさずに参加している。

 定期的に診ている上山の患者は往診を含め数人程度だが、今後、高齢化の進展に伴って増えることが予想される。

 「年を取って自由に外出できない人も、ここの自然や人情が気に入って移住した若い人も、誰もが幸せを実感できるために、医師として何ができるのかを模索したい」

(2019年10月09日 08時51分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ