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まび日誌―被災記者から「避難行動」 ハード整備が進んでも

海抜ゼロメートル地帯の木曽岬町。60年前の伊勢湾台風で甚大な被害を受けた。奥を流れるのが木曽川
海抜ゼロメートル地帯の木曽岬町。60年前の伊勢湾台風で甚大な被害を受けた。奥を流れるのが木曽川
 色づいた穂が秋風に揺れ、サラサラと心地よい音を立てる。

 西日本豪雨により浸水被害を受けた倉敷市真備町地区の自宅周辺の田んぼで、稲が順調に育っている。背丈ほどの雑草に覆い尽くされていた1年前からすれば、奇跡のように思える。

 8月末、自宅のリフォームが完成し、家族4人で真備に戻った。夜になると新改築した辺りの住宅にも明かりがともる。被災直後のように真っ暗ではなくなったが、まだ豪雨以前の半分に満たない。

 “日常”の暮らしを再開させて間もない9月1日、三重県主催の防災訓練に招かれた。会場は60年前の伊勢湾台風で高潮被害に遭い、死者・行方不明者が328人に上った木曽岬町だ。

 伊勢湾と木曽川に囲まれた同町は、全域が水面より低い海抜ゼロメートル地帯。伊勢湾台風後に堤防や排水場など大規模な治水対策が施された。ハード面の強化は住民に安心感をもたらした一方で、危機意識の低下を招いた。歳月とともに記憶の風化も進み、避難指示・勧告が出ても行動を起こさない人がほとんどなのだという。

 真備での被災体験を話す機会をいただき、大規模な水害が過去に何度も発生していながら、備えが十分でなかった自身の反省を踏まえ、早期避難の重要性を呼び掛けた。「河川整備というハードだけでは不十分。避難行動が伴ってこそ命は守れる」。同県の防災アドバイザーでもある三重大大学院・川口淳准教授との対談でも、意見が一致した。

 高梁川と小田川の合流点付け替えや支流の堤防強化など、真備においてもハード整備が進む。これに安心せず、最悪の事態を想定した行動計画を家族全員で話し合って行動に移せるよう、今度こそ徹底しておきたい。そう強く感じた訓練だった。

 木曽岬町も古くからの穀倉地帯で、木曽川などの恵みを受けた上質な米が生産されるという。既にほとんどの田んぼで稲刈りを終え、豊作だったと聞く。

 真備の稲刈りも近い。豪雨の影響に対する不安は尽きないが、以前と同じような初秋の風景に、少し期待している。

(2019年10月02日 16時17分 更新)

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