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北方領土問題 交渉進展へ戦略練り直せ

 安倍晋三首相が「戦後外交の総決算」と位置付け、力を入れる北方領土問題が行き詰まり状態にある。強引かつ巧妙なロシア外交に翻弄(ほんろう)されて溝が埋まらず、戦略の限界も見えてきた。

 ロシア極東ウラジオストクで、5日行われたプーチン大統領との首脳会談では、北方四島での共同経済活動として観光ツアーの試行事業を10月に実施することなどで合意した。だが、他の項目でプーチン氏から前向きな発言はほとんど聞かれず、焦点の北方領土問題を含む平和条約締結交渉も、未来志向で進める方針を確認するにとどまった。

 安倍氏がプーチン氏との個人的な信頼関係や経済協力などをてこに重ねた首脳会談は、今回で27回に上る。あらためて領土交渉の難しさ、厳しさがうかがえよう。

 両首脳は昨年11月の会談で、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本へ引き渡すと明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで一致した。日本は今年6月の大筋合意を目指したが不発に終わった。仕切り直しの今回で、解決はむしろ遠のいた感さえする。

 交渉が停滞している大きな原因は、ロシア側が日本に突き付けた難題にある。

 一つが北方領土の主権を巡る争いだ。今年に入ってからロシア側が北方領土は第2次大戦の結果、合法的にロシア領になったと日本が認めることが交渉の前提だと主張してきた。日本の公式見解は北方領土は日本固有の領土で、当時のソ連が日ソ中立条約を破って侵攻し不法占拠状態にあるというものであり、承服はできまい。

 もう一つは北方領土を日本に引き渡せば、日米安全保障条約に基づいて米軍が配備される可能性への懸念だ。その一方でロシアは島々での軍備強化を進めている。

 プーチン氏は平和条約締結の重要性には言及するが、そこに向けて歩み寄ろうという姿勢は感じられない。

 今回の会談直前にはプーチン氏が、色丹島の水産加工工場の稼働式典にビデオ中継で参加した。8月には、メドベージェフ首相も択捉島を訪問した。実効支配を誇示し、領土問題で一切妥協しないとの強いメッセージだろう。

 背景にはロシアの世論がある。約7割が北方領土の日本への引き渡しに反対という。支持率低迷がプーチン政権を強硬姿勢に向かわせている。

 日本国内でも安倍政権の対ロ交渉を巡り、「成果を得るための融和に傾いて足元を見られ、ロシアに経済的実利だけを与えないか」との不安が指摘されている。4島返還から事実上の2島を軸にした交渉に転じた経緯の説明や、今後の展望などを丁寧に国民に説明することが必要だ。

 両首脳は11月にチリで再会談する。安倍政権には交渉の妥当性を冷静に分析し、対ロ外交の戦略見直しを含めて熟慮するよう求めたい。

(2019年09月15日 08時00分 更新)

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