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カシミール問題 印パは過激行動自制せよ

 インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方が大きく揺れている。

 インドのモディ政権が、実効支配する北部ジャム・カシミール州に70年にわたって認めてきた自治権を突如として強引に剥奪し、強く反発するパキスタンとの間で緊張が高まっている。核保有国同士だけに対立の深刻化が心配だ。

 1947年に英領から印パ両国が分離独立して以降、カシミール地方は互いが実効支配地域を設けて争い、相手の地域も含めた領有権を主張している。中国もインドとの国境紛争を経て一部地域を実効支配している。

 ジャム・カシミール州は、ヒンズー教徒が主体のインドで唯一イスラム教徒が多数を占める州で、インドからの独立やパキスタンへの編入を求めて反乱や暴動が相次いだ。このため49年にインド政府が、混乱回避などを見据えて同州に一定の自治権を認めることを憲法に定めた。

 具体的には、外交や防衛、通信などの分野を除いて中央政府の法律適用には州の承認を得ることが必要とした。さらには同州の住民以外による土地取得の制限など幅広い権限が盛り込まれた。この取り決めが、インドとカシミールの緊迫した関係を支えてきたとも言えよう。

 インド政府は、その“緩衝材”に手を付けた。同州に大幅な自治権を認めていた憲法の条文を削除するとともに、二つの連邦政府直轄地に分割する方針だ。実効支配が強化されることになろう。

 モディ首相は国民に向けた演説で、同州の自治権について「分離主義以外何ももたらさなかった。パキスタンはテロを広める武器として利用した」と批判。今回の決定で、発展への「新時代」が始まると正当性を強調した。

 背景には、圧勝した先の総選挙で掲げた公約の実行やヒンズー教徒の支持固め、さらには停滞するインド経済に対する国民の不満をそらす狙いなどが透けて見える。

 とはいえ、地元との協議もなく唐突に大統領令を出し、国会で憲法を改正した。あまりにも強引と言わざるを得ない。イスラム教徒の住民はヒンズー教徒が押し寄せて人口構成が変わらないか不安を募らせる。パキスタンのカーン首相は反発を強め、貿易停止や駐インド大使の召還、さらには軍にも警戒を指示した。

 懸念されるのが軍事衝突に発展しないかという点だ。今年2月には、インド治安部隊の40人が死亡するテロが起きたことをきっかけに、両国の戦闘機が交戦する事態となった。そこに今回の自治権剥奪だけに気に掛かる。

 ともに核兵器を保有しており、両首脳が内向きの意識で強硬路線を進めば、地域はもちろん世界の平和と安全が危うくなる。互いに事態の好転に向け、最大限の自制と努力を求めたい。日本はじめ国際社会も緊張緩和への積極的な働き掛けが欠かせない。

(2019年08月16日 08時00分 更新)

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