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映画で問い直す日本国憲法の価値 井上淳一監督「知る第一歩に」

「こんな映画を作っている人がいるということが、閉塞感漂う世の中の一つの希望になればいいなと思う」と話す井上監督
「こんな映画を作っている人がいるということが、閉塞感漂う世の中の一つの希望になればいいなと思う」と話す井上監督
映画「誰がために憲法はある」の一場面((C)「誰がために憲法はある」製作運動体)
映画「誰がために憲法はある」の一場面((C)「誰がために憲法はある」製作運動体)
 芸人松元ヒロの一人芝居「憲法くん」を基にした映画「誰がために憲法はある」が7月5日から、シネマ・クレール丸の内(岡山市北区丸の内)で上映される。演じるのは名優・渡辺美佐子。日本国憲法になりきった一人語りと、女優仲間と長年続ける原爆朗読劇を組み合わせて、70年を経た現行憲法の価値を改めて問い直す。来岡した井上淳一監督は「このままでは『国が国民を縛る』ための憲法になってしまう」と、現在の改憲論議への危機感を語った。

 わたしというのは戦争が終わった後、こんなに恐ろしくて悲しいことは二度とあってはならない、という思いから生まれた、理想だったのではありませんか―。「憲法くん」を演じる渡辺が語りかけ、憲法前文を暗唱する。

 「前文には誰のために、なぜ憲法が生まれたのかということが、実に明快に記されている」と井上監督。国会は改憲勢力が多数派を占め、いよいよ着手しようとする現政権に「国民主権の縮小、戦争放棄の無効化、基本的人権の制限ですよ」と厳しい目を向ける。

 世の流れに対して映画は何もしなくていいのか、との思いを抱く中で偶然に手にしたのが絵本化された「憲法くん」だった。社会風刺ネタで人気の松元が、憲法の大切さを分かりやすくユーモラスに伝えようと、約20年前から全国で演じ続けている芝居。憲法を擬人化する手法は「世界で誰もやっていない発明だ」と感心する。

 社会問題を前面に出した作品は、関心ある人にしか届かない難しさがあるが、憲法くんならば「“届かない人”の心も広く、揺さぶることができるかもしれない」と映画化を提案し、松元から快諾を得た。

 「この映画は美佐子さんに導かれるようにしてできた」とも語る。キャストを考えた時、戦争経験があり舞台で社会的テーマに取り組む、今年87歳になる女優が浮かんだ。渡辺は初恋の少年が疎開先の広島で被爆死しており、日色ともゑ、岩本多代らとともに原爆の悲惨さを伝える朗読劇を30年以上、全国各地で上演してきた。

 映画では、出演者の体力的な問題から今年で最後を迎えるその朗読劇の様子も追う。悲しい過ちを繰り返すまいと舞台に立ち続けた女優たちの思いを映し出している。

 朗読劇の場面の後に、渡辺が再び憲法くんを演じる。戦争体験をリアルに感じた後に、語りかけられる前文は鑑賞者にどう響くだろうか―。井上監督は「この映画をまずは、憲法とはどのようなものか知る第一歩にしてほしい。ただただ、たくさんの人に届いてほしい」と言葉を絞った。

 いのうえ・じゅんいち 1965年愛知県出身。早稲田大入学と同時に若松孝二監督に師事。監督作品に「戦争と一人の女」(2013年)、原発事故を題材にしたドキュメンタリー「大地を受け継ぐ」(15年)など。在りし日の若松プロを描いた「止められるか、俺たちを」(18年)では脚本を手掛けた。

(2019年06月24日 13時50分 更新)

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