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銀塩写真時代の思い出 引っ越し荷物からポロリ

ビル・エバンスのLPに挟まっていたスティーブ・キューンの写真
ビル・エバンスのLPに挟まっていたスティーブ・キューンの写真
術衣を着てパチリ。気分は白い巨塔か?
術衣を着てパチリ。気分は白い巨塔か?
 世間は何事にも「平成最後の…」という、うたい文句があふれかえっています。実は、くしくも令和になる5月に引っ越すことになりました。と、言っても2キロくらいの移動です。しかし、距離は近くても引っ越しは引っ越し。片付けが平成いっぱい続きそうです。といってもほぼ「断捨離」。今、大人気のコンマリ流(片付けコンサルタント・近藤麻理恵さん)の片付け方法を模索している最中です。コンマリ流なら衣類から片付けるそうですが、小生にとっては本やレコード、CDなどが片付け第1陣になりました。ゴソゴソやっていると、本の間から懐かしい写真が出てきて作業が止まる。またゴソゴソしては作業が止まる。この繰り返しです。

 膨大な片付け作業、緒に就いたばかりですが、少し感動した写真エピソードを紹介します。引っ越し先はマンションなので、ステレオセットは断念せざる終えません。スピーカー、レコードプレーヤーなどはオーディオ買取業者に引き取ってもらいました(何と福岡市から買取に!)。レコードプレーヤーが無くなったのですからレコードも岡山の買取店に出向き、査定してもらいました。

 小生はビル・エバンスが好きでかなりのレコードとCDを持っていました。CDは手元に残したのですが、同じアルバムでもレコードジャケットになると、やはりすごくカッコいいのです。買取店もビル・エバンスは欲しかったようで、喜んでくれました。ジャケット写真もCDサイズとLPサイズだと訴えてくるものがまるで違う。まして、スマホにダウンロードされたジャケットサイズはベタ焼きのような小サイズです。サイズの大きいLPの方が、音楽の芸術性や録音された当時の時流がにじみ出てくる量? がはるかに大きいと感じました。

 査定確定後、買取店に再訪したのですが思わぬ写真に出くわしました。かつて岡山市で演奏した「スティーブ・キューン ジャズトリオ」の白黒写真です。スティーブ・キューンはビル・エバンスの流れをくむジャズピアニスト。ビル・エバンス伝説のライブ演奏が行われたビレッジ・バンガードでも弾いており、名門ハーバード大学卒という異色なアーティストです。

 六つ切りサイズでピアノを弾くスティーブ・キューン。グランドピアノの上の空間に直筆サインが書かれていました。彼のレコードは持っておらずCDだけだったのですが、なぜかビル・エバンスのレコードの間に挟まっていたのです。実はこの写真、小生が撮ったものです。当時の公演主催者から依頼を受けて舞台撮影したものだったのです。1990年代ですからフィルム時代です。本人のサインがあるというのは、公演後の打ち上げで書いてもらったはずです。

 この写真を検証します。撮影後すぐに帰宅して白黒フィルム現像、フィルム乾燥後に急いで引き伸ばし機にセット。そして現像、停止、定着作業後に水洗。最後に乾燥させて打ち上げ会場に持参したのです。プレゼント用に各メンバーごとに数枚は持って行ったと思います。デジタルの今なら瞬時にできる作業が、どんなに頑張っても1時間〜2時間かかる作業をしていたのです。スティーブ・キューンも大変喜んでくれたのを覚えています。2時間前に演奏していた姿が白黒のプリントして目の前に現れたのですから…。で、お礼の気持ちで写真にサインをして返してくれたのでした。

 少し誇らしいことがありました。30年近く経っているのですが、写真の変色がなかったことです。白黒プリントは急ぎとなると最後の定着と水洗作業がおろそかになります。ここで手抜きをすると茶色に変色します。それが、いまだにきれいでした。急いでいたにもかかわらず「良い仕事してますね〜」だったのです。二度と会うことはないかもしれない相手だからこそ、手抜き作業をしなかった自分を褒めた次第です。

 それと、本の間から手術着(術衣というそうです)姿のセルフ写真も現れ、また片付けが中断。 マスクと手術帽着用で更衣室のようです。写真の裏には1986年5月の日付。当時最新医療だったレーザーメスを使用した肺気腫手術の取材で、カメラマン自身も術衣を着用して入室したのでした。小生はフォトジェニックではないので、セルフ写真は少ないのですが、よほどうれしかったのか術衣姿を撮ってもらっています。たぶん撮影者は同行した記者でしょう。当たり前ですが若い! そしてやせている! スマホで撮った写真より重みが違います。画素数ではスマホの方が圧倒的に多いのですが、アナログのザラザラした粒子の見える画面には、まさに当時の光が銀粒子に閉じ込められています。

 今日紹介した二枚の写真、画像加工もできない時代の写真です。写っているのは事実しかありません! 「真を写す」。写真の醍醐味を実感しつつ、引っ越し作業を再開したのでした。

     ◇

蜂谷秀人(はちや ひでと)フリーランスカメラマン。ファジアーノ岡山オフィシャルカメラマン、日本写真家協会会員。1985年、日本大学芸術学部写真学科卒業後、山陽新聞社入社。編集局写真部を皮切りに夕刊編集部、家庭レジャー部記者を経て1995年に独立。1962年岡山市生まれ。

(2019年04月15日 19時46分 更新)

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