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若者に伝えたい、日本酒の魅力 交友関係広げる「大人の嗜み」

出張や外出先での酒席が続いたときは、自宅で簡単なおつまみを作り日本酒を楽しむ時間がなによりの楽しみ
出張や外出先での酒席が続いたときは、自宅で簡単なおつまみを作り日本酒を楽しむ時間がなによりの楽しみ
 桜の季節が、今年もめぐってきた。四季を愛(め)で、風流を楽しむ人たちにとって、心躍るシーズンである。

 この桜の風景が、新たな環境に身を置く人たちにはどのように映っているだろうか。満開の桜並木に晴れやかな自分の姿を重ねる人もいれば、凛とした立ち姿や可憐な花に背中を押されて新たな一歩を踏み出した人もいるだろう。この先に待ち受ける出来事は決していいことばかりではないけれど、成功も失敗もすべてが将来の糧になるに違いない。うれしいとき、ちょっぴり苦い思いをしたとき、一杯の日本酒がそれぞれの癒やしになればと願うばかりだ。

 近年、若い人たちは日本酒を飲まなくなった。それ以前にアルコール飲料自体を飲まなくなった。理由は、健康面でのマイナスイメージや酔っ払うことへの抵抗心など。会社の上司や同僚などと杯を交わして交流を深める「飲みニュケーション」に至っては、彼らに気を使わなければならないとのプレッシャーもあるようだ。こうした声を耳にするにつけ、いい大人になってしまった私はさみしい思いが募る。その一方で、酒を粋に嗜(たしな)んでこなかった私たち大人の責任でもあるのだと反省する。

 それでも私は、若い世代の人たちに伝えたい。酒を嗜むことが必ずしも“負”ばかりではないことを。

 個人的な経験談で恐縮だが、私が日本酒を愛飲しはじめたのは、今から15年ほど前。夫の仕事の関係で岡山県に引っ越して間もない頃だった。岡山でライターとして独立し、出身地広島の酒蔵を取材する機会に恵まれると、造り手の情熱あふれる人柄と酒のおいしさに心を奪われ、またたく間に日本酒のとりこになった。

 その後SNSで地酒にまつわる情報を発信したり酒の会に参加したりするようになると、交友関係が拡大。年齢や立場を超えた酒宴ではさまざまな話題と接したおかげで視野が広がり、自らの仕事や活動にプラスになった経験も少なくない。体質的に飲めない人もいるので決して強制はしないが、日本酒に少しでも関心があれば大人の嗜みとし気軽に楽しんでくれたらうれしい。

 おいしい酒を気の合う人と軽く味わう。そんな粋な楽しみ方ができれば、酒は日々の暮らしを豊かにもしてくれると信じている。日本酒ビギナーなら、日本酒のおいしさやアルコールを飲む楽しさを知る人がすすめる1本からスタートしてみては。日本酒が気軽に楽しめるイベントなどに出かけてみるのもいいだろう。

 そんな時に心掛けたいのが、「和らぎ水」だ。「和らぎ水」とは酒と酒の合間に飲む水のこと。深酔いを防ぎ身体への負担を軽減するだけでなく、次の一杯や料理をおいしくいただくため口中をリフレッシュする効果も期待できる。食事をしながらゆっくりと飲むことでも飲みすぎはある程度抑制できるし、おいしい料理と酒との相性をじっくりと楽しむのもいいものだ。自分のペースで酒食を味わいたい人は、食の好みや食べるペースが似ている人と席をともにするのも一案だ。

 適量の酒には、ストレスを軽減したりリラックスしたりする効果が期待できる。週末には自宅でくつろぎながら軽い晩酌を楽しむのもおすすめだ。できればひと手間かけたおいしい料理とともに、時間をかけていただきたい。

 いつまでも楽しく、健康的に愛飲するのもまた、大人の嗜みだと思う。かくいう私は何度か酒で失敗した経験もあり、自戒を込めてコラムを書いている。農家の人が丹精した米と地域に流れる清冽(せいれつ)な水を使い、蔵人が心を込めて醸した酒。その恵みに感謝し、大切に飲むことができる喜びを、これからも多くの人と分かち合いたい。

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 市田真紀(いちだ・まき) 広島市出身の日本酒ライター。最近の主な活動は、日本酒業界誌『酒蔵萬流』の取材執筆や山陽新聞カルチャープラザ「知る、嗜む 日本酒の魅力」講師など。このほか講演やイベントの企画・運営を通して、日本酒や酒米「雄町」の認知拡大を図っている。夏は田んぼ、冬季は蔵が取材フィールド。たまに酒造り(体験・手伝い)。SSI認定きき酒師、同日本酒学講師。J.S.A SAKE DIPLOMA取得。1970年生まれ。

(2019年04月05日 11時00分 更新)

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