山陽新聞デジタル|さんデジ

臨時国会の召集 期限定める法整備を急げ

 このまま手を打たなければ、憲法の規定が空文化する恐れが拭えない。

 安倍晋三内閣が2017年、森友・加計学園問題を受けた臨時国会の召集要求に約3カ月応じなかったのは憲法違反だとして、野党の国会議員らが国に損害賠償などを求めた訴訟3件の上告審判決があった。最高裁は上告をいずれも棄却し、岡山など3地裁に起こされた訴訟は野党側敗訴の一、二審判決が確定した。

 判決では、臨時国会の召集を定めた憲法53条に基づき、衆参いずれかの4分の1以上の議員が要求すれば内閣は召集する義務があると指摘。その一方で「個々の議員の権利などを保障したものではない」と損害賠償請求はできないとした。裁判官5人中、4人の多数意見による結論だ。

 安倍内閣の対応が違憲かどうかの核心に触れなかったのは物足りない。ただ、53条を巡る最高裁の初判断であり、内閣の召集義務を確認した。地裁判決では「違憲の余地がある」とまで指摘されている。内閣の対応が正当だと認められたとは言えまい。

 反対意見も特筆される。行政法学者出身の裁判官は、要求から召集までの合理的期間について、地方自治法の臨時議会の招集規定などと同様に「20日あれば十分と思われる」と具体的に言及した。安倍内閣の対応は「召集要求は拒否されたとみざるを得ない」と述べ、特段の事情がない限り違法と言わざるを得ず、賠償命令が相当だとしている。

 裁判官1人であっても、理由のない召集の遅れに賠償命令を求める意見が付いた事実は重い。政府・与党は真摯(しんし)に受け止める必要があろう。

 そもそも、53条には要求から召集までの期限の定めがない。これを逆手に取ったように、召集を先送りする対応が常態化している。

 訴訟で争われた安倍内閣の場合、要求から98日後に召集した臨時国会の冒頭に衆院を解散したため、審議さえなかった。菅義偉内閣は新型コロナウイルス対応の審議を求める要求に約2カ月半も対応せず、岸田文雄内閣は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が浮上しながら約1カ月半にわたり応じなかった。

 これでは、政権にとって不都合な問題の追及を逃れるための「先延ばし戦術」と批判されても仕方なかろう。国会の審議が恣意(しい)的に封じられる状況は正さねばならない。

 野党は昨秋、要求から20日以内の召集を義務付ける国会法改正案を衆院に提出した。自民党の反対もあって審議入りしていないが、自民は野党時代の12年にまとめた党憲法改正草案で召集期限を「20日以内」と明記している。なのに応じないのは、ご都合主義のそしりを免れまい。

 53条は少数意見を国会に反映させる趣旨とされる。多様な民意をくみ取り、審議の場を確保することが求められる。与野党で召集期限を定める法整備を急ぐべきである。

(2023年09月27日 08時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ