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医師の働き方改革 地域医療の影響抑えねば

 働き方改革で、来年4月から勤務医の残業と休日労働が原則、年960時間に規制されるまで半年余りに迫った。多くの労働者は2019年から原則360時間までとされたが、医師は診療を拒めない「応召義務」があることなどから上限が長くなり、適用時期も5年間猶予された。

 救急医療に携わる医療機関などは都道府県の指定を受け、特例として1860時間まで延長できるものの、休息時間の確保といった対策が義務付けられる。医師の健康を守るだけではなく、ミスの防止も期待される。質の高い医療につなげてほしい。

 改革の必要性を改めて示したのは、先月明らかになった26歳の医師の自殺である。神戸市の病院で消化器内科の専攻医(旧後期研修医)として研修を受けながら診療しており、昨年5月に自殺したのは長時間労働を原因とした労災として認められた。

 労働基準監督署が認定した死亡直前1カ月間の時間外労働は、国の基準を大幅に上回り200時間を超えた。各医療機関は労務管理を改めて徹底してもらいたい。

 だが、長時間労働が大きく解消に向かう兆しは見えない。文部科学省が昨年7~8月に実施し、今年4月に発表した調査では、全国の大学病院で勤務する医師の3分の1に当たる1万5千人が来年度、960時間の時間外労働の上限を超えて働くことになると予測した。特例の1860時間も超えると見込んでいる医師もいた。

 調査は規制が及ぼす影響も尋ね、9割の大学が研究や臨床実習の時間が確保できなくなると答えた。特に懸念されるのは、地域医療の体制維持が難しくなる恐れがあることである。

 救急や産科など夜間、休日も対応が必要な医療は大学からの医師派遣によって支えられているからだ。派遣を減らさざるを得なくなれば、救急や出産対応の縮小や中止が起きることも予想される。

 こうしたことを避けるため、まずは限られた人材を生かす医療機関の工夫が急がれる。医師の一部の業務を看護師、事務をサポートする補助者らに任せることや、デジタル技術の導入などによる効率化である。特定の医師に負担が集中しないよう主治医制から複数の医師によるチーム医療に移行するのが有効な場合もあろう。

 働き方改革への準備が新型コロナウイルス対応で遅れていないかも心配だ。自治体は現状を把握し、地域医療への影響を抑えねばならない。長期的には、救急や産科などは多くの医療機関に少人数ずつ医師が分散するのは改め、特定の病院に集めることも必要に応じて促さざるを得まい。

 こうした状況を市民に広く伝えて、協力を得ることも欠かせない。緊急性がないにもかかわらず、便利だからと時間外や休日に受診することなどは避けねばならない。

(2023年09月24日 08時00分 更新)

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