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待機児童の減少 保育の「質」確保に力注げ

 希望しても認可保育施設に入れない「待機児童」の解消が進んでいる。4月1日時点での全国の合計が2680人だったと、こども家庭庁が公表した。

 この数は統計のある1994年以降最少で、近年のピークだった2017年に比べ10分の1の水準だ。岡山県は56人で、同じくピークだった17年の20分の1に減った。国主導の受け皿拡大が一定の成果を上げたと言えよう。

 ただ「待機ゼロ」は本来、若い世代が安心して家族を持てるよう、どこに住んでいても子どもが身近に通え、安全に過ごせる場所を整えるのが目的だ。入園しやすくはなったものの課題は依然多い。

 一つには需給のずれが挙げられる。家に近い特定の園のみを希望しているといった理由で集計から除外された、いわゆる「隠れ待機児童」は全国で6万6千人超、岡山県でも千人超と高止まりしている。街の中心部など自治体内で特定地域に申し込みが偏る傾向があるためだ。

 残る待機児童についても過半数が都市部に集中し、逆に地方では定員に満たない施設が目立ち始めるなど需要の地域差が際立ってきた。少子化が加速する中、保育施設をどう維持していくかという課題は今後、都市部でも直面する可能性が高い。ニーズを見ながら、それぞれに応じた対策を進める必要がある。

 急がねばならないのは、子どもたちの成長を支える十分な保育の「質」を確保する取り組みである。

 国が昨年初めて行った「不適切な保育」の実態調査では、子どもに罰を与えたり、脅すような言動をしたりするほか「虐待」に当たる事例も確認された。死亡を含む重大事故も年々増えている。

 要因は慢性的な人員不足や、実態とかけ離れた職員配置の基準にあるとされる。短期間に大量の施設を整備した影響から経験の浅い保育士の割合が増えたり、自治体の指導監査が行きわたらなくなったりして質が低下しやすい状況も生じているという。

 保育現場では1人の保育士が担当する園児の数の多さが長年にわたり問題視されてきた。政府は6月にまとめた少子化対策で、その数を定めた配置基準の改善を明記した。来年度予算は年末までに具体化する方針だが、これ以上先送りすることなく着実に実施するべきだ。

 保育が果たす役割は広がっている。政府は、親が働いているかどうかにかかわらず施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」の26年度全国実施を目指す。子育て世帯が気軽に使える「かかりつけ相談機関」としての機能を持たせる計画もある。

 子育てしやすい環境づくりは歓迎できる。とはいえ現場の負担が過剰になっては本末転倒だ。より丁寧な保育を実現するために、配置基準の見直しと、人材確保に向けた処遇改善が求められる。

(2023年09月23日 08時00分 更新)

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