正宗白鳥、藤原審爾、柴田錬三郎…
正宗白鳥、藤原審爾、柴田錬三郎の各氏らが備前市出身の作家であることは知られているが、この人もゆかりがあったとは。SF小説の名手だった眉村卓さん(1934~2019年)だ▼大学卒業後に就職した耐火物メーカーの日生工場(同市日生町)に配属され、約1年を過ごした。同町の加子浦歴史文化館で開催中の企画展(11月13日まで)で知った▼初任地をこよなく愛した。作家になってからもよく訪れた。〈仕事が行きづまったりすると、ぼくは日生(ひなせ)へ旅行する。そこが、ぼくにとって息抜きの地だからである〉。会場には自筆原稿も展示されている▼長女の村上知子さん=東京都=に会場で会った。知子さんによると、眉村さんの寮の前が海で、カニが窓をはう音で目覚めることがあったそうだ。日生産のシャコが好物だったという▼がんで余命宣告を受けた妻を励ますために1日1話の短編を書いた。妻との思い出を振り返った「妻に捧(ささ)げた1778話」はベストセラーとなった。「日生時代は結婚前で、大阪にいた母と父は中間の姫路で会ったりしていたらしい」と知子さんが教えてくれた▼その頃、藤原、柴田両氏は既に直木賞を受賞し頭角を現していた。刺激を受けたこともあっただろうか。作家に転身したのは日生を離れ5年後。今年はデビュー60周年に当たる。
(2023年09月19日 08時00分 更新)