老いは誰にでもやってくる。中国…
老いは誰にでもやってくる。中国・唐代の文学者、韓愈(かんゆ)も例外ではなかった。1200年ほど前に詠んだ詩「落歯」から察するに、ひどい歯周病だったようだ▼いわく、去年は奥歯が1本、今年は前歯が1本抜けた。瞬く間に6本、7本と抜け、残りも皆グラグラ動く。歯が私を見捨てて抜け去ったときは、山が崩れたようにぼうぜんとした―。ああ、読むだけでつらい▼それに比べ、現代日本の高齢者は優秀である。厚生労働省による昨年末の実態調査では、80歳で自分の歯が20本以上ある人の割合は推計51・6%だった。85歳以上に限れば38・1%だが、7年前の前回調査から12ポイントほど増加している▼20本は入れ歯なしにほとんどのものを食べられる目安。「8020運動」と銘打って、平成の初めから関係各所がシニアの口腔(こうくう)ケアを熱心に推進してきた成果と言えるだろう▼厚労省はさらに、歯磨きの仕方や食事の際の注意点を盛り込んだ新たな手引を本年度中に作る方針だ。幼少期だけでなく、多忙で治療を後回しにしがちな壮年期、かむ力が低下した高齢期と、世代ごとに必要な対応をまとめるという▼韓愈は詩が進むにつれ開き直り、もし年に1本抜けるとしても、あと20年は十分もつと笑い飛ばした。きょうは敬老の日。一人一人の健康と笑顔を支えている歯にも感謝をささげたい。
(2023年09月18日 08時00分 更新)