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倉敷中央病院 予防先制医療を強化 付属医療プラザ 菊辻所長に聞く

「健康は自分で守る」という意識を根づかせたい」と話す菊辻所長
「健康は自分で守る」という意識を根づかせたい」と話す菊辻所長
予防・先制医療の最前線となる倉敷中央病院付属予防医療プラザ
予防・先制医療の最前線となる倉敷中央病院付属予防医療プラザ
 6月2日に創立100周年を迎える倉敷中央病院(倉敷市美和)が、病気になる前にリスクを見つけ対応する「予防・先制医療」分野を強化している。同病院付属予防医療プラザ(同市鶴形)を核に、人工知能(AI)による発症予測システムの開発、地域のかかりつけ医との連携推進を打ち出した。「発症してから治療を始めるというこれまでの常識を変えたい」と話す同プラザの菊辻徹所長に、具体的な取り組みや今後の展望を聞いた。

 ―倉敷中央病院は高度急性期病院として先端医療を手がける。

 がんや脳卒中、心臓病の三大疾病に加え、幅広い領域で難治療に挑んでいる。しかし医療が進歩しても救えない命がある。見つけた時には手遅れのケースも多い。そうなる前に何ができるか。長年培ってきた医療データを有効活用し、最先端の検査と組み合わせる予防・先制医療に力を入れるべきだと考えた。「待ち」から「攻め」の医療へ―。まさに病院創立以来の大変革だ。

 ―2019年6月にオープンした付属予防医療プラザの役割は。

 予防・先制医療を担う最前線の施設になる。病気を早期発見するだけでなく、将来病気になる可能性までを探るプロジェクトが進行している。どのような検査結果だった人がどんな病気になったのか。その関連性を数値化し、発症予測モデルの構築を目指している。鍵を握るのが過去のデータで、倉敷中央病院に蓄積された45万人分ものカルテ情報、プラザが保有する過去10年分の健診データを匿名加工して分析する。

 ―予測モデルの使い方は。

 近い将来のさまざまな病気の発症リスクをAIが予測し、受診者に提示する。例えば、健診の心電図検査では異常がなくても、心臓の血管が狭くなっている人がいるとする。AIが「◯年後に心筋梗塞を起こす可能性が同年代の◯倍」と判断すれば、心臓ドックを勧める。そこで異常が見つかれば、早い段階で専門医に委ねることができる。

 ―かかりつけ医との連携も始めている。

 「異常があった時に検査を受ければいい」と言う人は多い。そこでかかりつけ医と連携し、患者に必要と思われる検査を通常のドックより割安で勧めてもらう仕組みをつくった。連携は倉敷市内の診療所2カ所にとどまっているものの、22年は約140人が利用し、超早期がんが見つかった症例もあった。連携施設を今後増やしていきたい。

 ―プラザが目指す将来像は。

 人口減少や超高齢社会により、医療財政は逼迫(ひっぱく)し、国の社会保障制度は大きな変革を迫られている。治療主体の現在の医療では医療費は膨大で、もはや限界に近い。必ず予防・先制医療の時代がやってくる。プラザの取り組みを通じて「健康は自分で守る」という意識を地域住民に根付かせたい。

 倉敷中央病院 大原孫三郎が1923(大正12)年6月2日、倉紡中央病院として開設、27(昭和2)年に倉敷中央病院に改称した。「治療本位」「病院くさくない明るい病院」「東洋一の理想的な病院」という理念を掲げ、現在も高度急性期病院として地域医療を支える。1172床という西日本有数の規模で、年間の手術件数は約1万1千件、新規入院患者は約2万7千人に上る。隣接する付属予防医療プラザは人間ドック・健診施設として年間5万人が利用する。

(2023年05月31日 07時27分 更新)

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