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小児患者の病衣 興陽高生が開発 点滴中も着替え容易、病院に寄贈

小児病衣の特徴を説明する花本さん(中央)と興陽高家庭クラブの後輩たち=24日、岡山医療センター
小児病衣の特徴を説明する花本さん(中央)と興陽高家庭クラブの後輩たち=24日、岡山医療センター
「置き布」のさらし反物を手にする嵯峨山住職=徳寿寺(画像の一部を加工しています)
「置き布」のさらし反物を手にする嵯峨山住職=徳寿寺(画像の一部を加工しています)
小児病衣を製作する生徒たち=20日、興陽高
小児病衣を製作する生徒たち=20日、興陽高
 入院中の小児患者のための病衣(パジャマ)を、興陽高(岡山市南区藤田)の生徒たちが開発した。医療現場の声を聞き、点滴中でもストレスなく脱ぎ着できるように工夫を凝らしている。60着を作り、国立病院機構岡山医療センター(同市北区田益)に贈る。

 病衣は上下セット。留め具が付いたスナップテープで肩、脇、前、脚の7カ所が開く。点滴中でもスムーズに着替えられ、チューブを無理なく通すことができる。生地には肌触りと吸水性の良い綿のさらしを採用。2枚重ねにして着心地と強度を高め、洗濯乾燥による縮みを計算してサイズを調整した。縫い代が体に触れて負担にならないよう、表地や重ねた生地の中に配した。

 岡山医療センターの依頼を受け、同校家庭クラブが中心となり、昨年6月に製作プロジェクトをスタート。看護師と意見交換しながら進めてきた。小児患者の服は甚平やTシャツが多いが、点滴中の着替えに関して、チューブの取り外しが必要▽子どもが突然動くと針がずれる場合がある▽付き添いの家族だけでは困難―といった課題を把握。試行錯誤を重ねてきた。

 プロジェクトでは岡山市仏教会が仏事の際、寺に納められるさらしの反物(幅約40センチ、長さ約10メートル)、学生服メーカーのトンボ(同厚生町)がスナップテープを無償提供。社会奉仕団体の岡山キワニスクラブ(同下石井)が資金調達などで協力した。

 まずは20着を仕上げ24日、岡山医療センターに寄贈。4月以降、さらに40着を贈る。家庭クラブ前会長の花本茉那実さん(18)=今春卒業=は「みんなの力で完成したパジャマ。子どもや家族、医療従事者の方たちの負担を減らし、役に立てればうれしい」と思いを語った。

つながった善意 多くの縁で実現


 興陽高による小児患者の点滴用病衣(パジャマ)の開発は、医療機関や企業、慈善団体など多くの縁で実現した。岡山市仏教会は、お布施として寺に納められるさらしの反物を提供。昔ながらの風習を「子どものために生かしたい」と生徒たちの活動を支援した。

 仏教会会長で徳寿寺(同市北区一宮)の嵯峨山智昭住職(65)によると、仏事の際、供養のための梵字(ぼんじ)や戒名などを記して供えるさらしは「置き布」と呼ばれる。昔は反物のお布施は一般的だったが、その風習が残っている都道府県は数カ所ほどという。

 以前はさらしで僧侶の襦袢(じゅばん)を仕立てるなどしていた。時代とともにそうした使われ方は減り、仏教会に所属する約100カ寺には、使い切れない多くの反物が保管されていた。

 「故人を供養する置き布が、ご縁を通じて形を変え、次代を担う子どもたちの一助となるのは意義深い」と嵯峨山住職。病衣製作プロジェクトの調整役を担当した社会奉仕団体・岡山キワニスクラブ(同下石井)の活動を知り、各寺に呼びかけ、計1300反を提供した。同団体の慈善活動の一つで、小児患者を励まし、治療の説明などに使われる人形「キワニスドール」の製作にも活用されている。

 興陽高に制服を納入している学生服メーカーのトンボ(同厚生町)は、病衣の肩や脇などを脱着するスナップテープで協力。値は張るが、体を圧迫しない介護用品や子供服向けの薄型約200メートル分を提供した。

 家政科や被服デザイン科がある同校はキワニスドール作りにも参加。岡山キワニスが、国立病院機構岡山医療センター(同田益)の依頼による病衣製作を打診し、生徒たちが手を挙げた。岡山キワニス会長を務める久保俊英院長(64)は「さまざまな世代の善意がつながった。取り組みの輪がさらに広がってほしい」と感謝している。

(2023年03月29日 22時42分 更新)

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