「年収の壁」対策 働く意欲支える仕組みに
パート労働者が働く時間を抑える理由となっている「年収の壁」の解消に、岸田文雄首相が意欲を示している。
会社員や公務員に扶養されている配偶者は、給与が一定額を上回ると社会保険料の負担などが生じて逆に手取りが減る。このため金額の境目を「壁」と呼び、超えて稼がないよう就業調整する人が少なくない。
「壁」は女性の所得増や社会進出を阻む要因になっているとして長年問題視されてきた。少子化社会において女性の労働力は重要性を増しており、働く意欲を後押しするような仕組みに早急に変えていかなければならない。
現行制度で「壁」は主に四つある。夫が会社員、妻がパート労働者の場合、妻は年収103万円を超すと所得税の支払い義務が発生し、同時に夫の勤め先が配偶者手当を打ち切るケースが多い。150万円超で夫の配偶者特別控除が段階的に減り始める。
企業規模などにより年収が130万円または106万円以上になると、夫が入る社会保険の扶養対象から外れる影響も大きい。厚生年金や勤め先の健康保険を自ら払わなければならなくなり、給与から天引きが始まる。
民間シンクタンクの昨秋の調査では、パートやアルバイトで働く既婚女性の約6割が「働き損」だと感じない程度に就業調整していた。一方、そのうち8割近くが、手取りが減らないなら今より多く働きたいと考えていることも分かった。
だが現状では、人手不足に悩む企業が働き手確保のために時給を上げてもパートの主婦らがさらに就業時間を削る悪循環が起き、人手不足が深刻化している。岸田政権が進める賃上げが拍車を掛ける懸念も拭えない。
政府は今秋から当面の時限措置として、扶養から外れる人の保険料を肩代わりする企業に対して国が助成する案を検討し始めた。手取りは減らなくなるので、就労を促す一定の効果はあろう。ただ、多額を見込まれる予算の財源は現時点で決まっていない。
実施できたとして、不公平感が増す可能性が高いことも気がかりだ。扶養に入らず働いている独身の人や自営業者らは助成対象から外れる。もともと配偶者に扶養される「第3号被保険者」は保険料を納めずに老後の年金を受け取れるため、共働き世帯などから「優遇されている」と指摘されてきた。公平性を保つ議論が欠かせない。
年収の壁の問題は安倍政権下でも議論されたものの、与党の慎重論でトーンダウンした経緯がある。男女の古い役割意識に基づく働き方を土台とした制度を実態に即して改めるのは当然としても、社会保険制度や税制の改正が必要となり容易ではない。
政府は「壁」解消の長期的な利点と欠点を分かりやすく示し、国民の多くが納得できる制度設計に努めてほしい。
会社員や公務員に扶養されている配偶者は、給与が一定額を上回ると社会保険料の負担などが生じて逆に手取りが減る。このため金額の境目を「壁」と呼び、超えて稼がないよう就業調整する人が少なくない。
「壁」は女性の所得増や社会進出を阻む要因になっているとして長年問題視されてきた。少子化社会において女性の労働力は重要性を増しており、働く意欲を後押しするような仕組みに早急に変えていかなければならない。
現行制度で「壁」は主に四つある。夫が会社員、妻がパート労働者の場合、妻は年収103万円を超すと所得税の支払い義務が発生し、同時に夫の勤め先が配偶者手当を打ち切るケースが多い。150万円超で夫の配偶者特別控除が段階的に減り始める。
企業規模などにより年収が130万円または106万円以上になると、夫が入る社会保険の扶養対象から外れる影響も大きい。厚生年金や勤め先の健康保険を自ら払わなければならなくなり、給与から天引きが始まる。
民間シンクタンクの昨秋の調査では、パートやアルバイトで働く既婚女性の約6割が「働き損」だと感じない程度に就業調整していた。一方、そのうち8割近くが、手取りが減らないなら今より多く働きたいと考えていることも分かった。
だが現状では、人手不足に悩む企業が働き手確保のために時給を上げてもパートの主婦らがさらに就業時間を削る悪循環が起き、人手不足が深刻化している。岸田政権が進める賃上げが拍車を掛ける懸念も拭えない。
政府は今秋から当面の時限措置として、扶養から外れる人の保険料を肩代わりする企業に対して国が助成する案を検討し始めた。手取りは減らなくなるので、就労を促す一定の効果はあろう。ただ、多額を見込まれる予算の財源は現時点で決まっていない。
実施できたとして、不公平感が増す可能性が高いことも気がかりだ。扶養に入らず働いている独身の人や自営業者らは助成対象から外れる。もともと配偶者に扶養される「第3号被保険者」は保険料を納めずに老後の年金を受け取れるため、共働き世帯などから「優遇されている」と指摘されてきた。公平性を保つ議論が欠かせない。
年収の壁の問題は安倍政権下でも議論されたものの、与党の慎重論でトーンダウンした経緯がある。男女の古い役割意識に基づく働き方を土台とした制度を実態に即して改めるのは当然としても、社会保険制度や税制の改正が必要となり容易ではない。
政府は「壁」解消の長期的な利点と欠点を分かりやすく示し、国民の多くが納得できる制度設計に努めてほしい。
(2023年03月26日 08時00分 更新)