山陽新聞デジタル|さんデジ

「影法師」(百田尚樹著) 岡山県済生会支部事務局総務部次長 川上健一さん

岡山県済生会支部事務局総務部次長 川上健一さん
岡山県済生会支部事務局総務部次長 川上健一さん
「影法師」(百田尚樹著) 岡山県済生会支部事務局総務部次長 川上健一さん
 読書は私の生活に欠かせません。中学や高校生のころは勉強や部活動で忙しかったのですが、大学生になって余裕ができ、暇を見ては読むようになりました。今はあまり時間が取れず、寝る前のひとときと、駅で通勤の電車を待っている時間や電車内で読むくらいですが、それでも月に1、2冊は読んでいます。

 最近、手に取る本の多くは小説です。いいストーリーに出合えれば、わくわくするような楽しい時間を過ごせます。それで心がリフレッシュされたら、仕事の面でも良い影響があるのかもしれませんね。

 百田尚樹さんは、テレビなどで見るといかつい風ぼうと物言いが目立ちますが、大変なストーリーテラーだと思います。作品はほとんど読んでいます。ボクシングを題材にした「ボックス!」や、出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした「海賊とよばれた男」など、面白い作品がたくさんあります。

 他には宮部みゆきさんや垣谷美雨さん、奥田英朗さんも好きです。宮部さんでは、カード社会の悲惨な現実を描いた「火車」(山本周五郎賞受賞)が良かったですね。直木賞をとった「理由」よりも私は面白いと思いました。

 今回紹介する「影法師」は、ミリオンセラーとなった「永遠の0(ゼロ)」に連なる百田さんの代表作の一つです。舞台は日本海に面した北陸あたりの小藩。厳しい身分制度と、稲作を生活の基盤としていた江戸時代の経済事情を背景に、男の友情と自己犠牲を巧みなストリー展開で描いています。

 無礼討ちで父親を惨殺された勘一は最下級の下士で、無口で孤独です。しかし絶望の中にも己を見失わず、努力と苦労を積み重ねて力強く人生を歩みます。勘一の親友となった彦四郎は家禄を継ぐことはできない次男ですが、剣も学問も優秀な硬骨漢です。誰からも慕われ、将来を嘱望されていますが、その彦四郎は勘一こそ「いずれ大事を為(な)す男」と評します。勘一は彦四郎によって命を救われ、藩の将来を左右する新田開発に取り組みます。その陰で、彦四郎は表舞台から姿を消すのです。

 途中、農民による一揆のシーンが印象的です。真夜中、5千人の農民がたいまつを手に竹槍(たけやり)や鎌、鍬(くわ)で武装し、城に押し寄せます。原因は不作が続いたことによる生活苦です。藩は農民の要求である年貢の減免を受け入れますが、その代償として多くの命が失われます。今も昔も悲劇は貧困から生まれます。

 物語の最後で彦四郎の行動の謎が解き明かされます。切なさが漂いますが、胸が熱くなりました。さすがは百田尚樹さん、というところでしょうか。

(談)=聞き手・河本春男

     ◇

 「読書三昧」は川上健一さんら4人が交代でお薦めの本を紹介。第1、3月曜日に掲載します。

「影法師」百田尚樹著(講談社文庫・792円)

 かわかみ・けんいち 1972年、新見市生まれ。関西学院大学経済学部卒業。1996年4月、岡山済生会総合病院入職。医事課や総務課、済生会本部事務局、特別養護老人ホーム「岡山済生会 憩いの丘」事務長などを経て2021年7月から岡山県済生会支部事務局総務部次長兼総務課長、同年10月から秘書広報課長兼務。趣味は読書、ゴルフ、スポーツ観戦。

(2022年09月05日 12時00分 更新)

あなたにおすすめ

ページトップへ