日本の墨文化 作州から復興 彫刻家・画家の武藤さんが寺子屋
イタリアと津山市にアトリエを構える彫刻家・画家の武藤順九さん(72)が、同市を拠点に墨の文化や日本人の美意識の素晴らしさを伝える「寺子屋」プロジェクトを展開している。墨による巻物「心の絵巻物」の制作と、石を削って自分だけの硯(すずり)を仕上げる「my硯」作りの二つの体験教室を柱に主に子どもたち向けに開催している。
抽象彫刻を手掛け、メビウスの輪のような造形「風の環(わ)」シリーズなどで知られるアーティスト。作品が抽象彫刻で初めてバチカン市国のローマ教皇公邸に永久設置されるなど、世界から注目を集める。
「小さな日本文化ルネサンス(復興)なんだよな」とプロジェクトへの思いを語る武藤さん。作州地域から県全域へと活動の輪を広げていく考えだ。
◇
津山市在住の彫刻家・画家の武藤順九さん(72)が展開する「寺子屋」プロジェクト。原点は東京芸術大卒業後の1973年に渡欧し、半世紀近く過ごす海外からの目線で見た母国への危機感にあった。
武藤さんによると、「文房四宝」と呼ばれる墨、硯(すずり)、筆、紙を使う機会が失われつつあるという。子どもたちの習字道具の硯はプラスチック製が主流で墨はすらず、墨汁を垂らすだけの入れ物になった。出身地・宮城県の伝統的工芸品「雄勝(おがつ)硯」が2011年の東日本大震災の津波で壊滅的被害を受けたこともショックだった。
自身が彫刻に取り掛かる際は、浮かんだイメージを幼い頃から親しんだ筆と墨を使って巻紙に描く。そんな制作スタイルを貫く中で、墨の濃淡に美しさを見いだす日本人特有の感性に気付かされた。
「グローバル化が進む世界で問われるのは個性。今のままでは日本人のアイデンティティーが失われる」
日本文化と硯産業の復興を目指して15年、仙台市の母校・南材木町小で児童が彫った硯で墨をすり、墨絵の巻物を描く授業を1年にわたって実験的に繰り広げた。16年、その取り組みを同市で開かれた全国造形教育研究大会で報告。以降、体験教室を東京、京都、金沢市など各地で重ねた。
県内での活動は空き家になった津山市内の妻の実家を19年にアトリエに改修して拠点としたのがきっかけになった。
作州地域の自治体や学校、民間と連携し、絵巻物の教室をメインに20年から同市や真庭市、鏡野、奈義町の小学校や文化施設など10カ所以上で開催。「葉っぱの一生」をテーマに命について感じたことを長さ6メートルの巻紙に表現する。想像力や個性を引き出せるよう教えることは一切せず、思い思いに仕上げさせる。
新型コロナウイルス禍が収束せず、渡航を見送る日々が続く中、寺子屋プロジェクトを育てていきたいとの思いが強くなっているという。「全国で点としてやってきたことを作州地域から面に広げたい」と語る武藤さん。「それが日本に生まれ、世界で仕事をさせてもらった恩返しになるはずだから」
山陽新聞社は、地域の方々と協力して課題解決や魅力創出を図る「吉備の環(わ)アクション」を展開中。武藤さんの取り組みを紙面などで報道するほか、県南で初となる「心の絵巻物」を8月19日、山陽新聞カルチャープラザ本部教室(086―803―8017)で開く。
抽象彫刻を手掛け、メビウスの輪のような造形「風の環(わ)」シリーズなどで知られるアーティスト。作品が抽象彫刻で初めてバチカン市国のローマ教皇公邸に永久設置されるなど、世界から注目を集める。
「小さな日本文化ルネサンス(復興)なんだよな」とプロジェクトへの思いを語る武藤さん。作州地域から県全域へと活動の輪を広げていく考えだ。
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津山市在住の彫刻家・画家の武藤順九さん(72)が展開する「寺子屋」プロジェクト。原点は東京芸術大卒業後の1973年に渡欧し、半世紀近く過ごす海外からの目線で見た母国への危機感にあった。
武藤さんによると、「文房四宝」と呼ばれる墨、硯(すずり)、筆、紙を使う機会が失われつつあるという。子どもたちの習字道具の硯はプラスチック製が主流で墨はすらず、墨汁を垂らすだけの入れ物になった。出身地・宮城県の伝統的工芸品「雄勝(おがつ)硯」が2011年の東日本大震災の津波で壊滅的被害を受けたこともショックだった。
自身が彫刻に取り掛かる際は、浮かんだイメージを幼い頃から親しんだ筆と墨を使って巻紙に描く。そんな制作スタイルを貫く中で、墨の濃淡に美しさを見いだす日本人特有の感性に気付かされた。
「グローバル化が進む世界で問われるのは個性。今のままでは日本人のアイデンティティーが失われる」
日本文化と硯産業の復興を目指して15年、仙台市の母校・南材木町小で児童が彫った硯で墨をすり、墨絵の巻物を描く授業を1年にわたって実験的に繰り広げた。16年、その取り組みを同市で開かれた全国造形教育研究大会で報告。以降、体験教室を東京、京都、金沢市など各地で重ねた。
県内での活動は空き家になった津山市内の妻の実家を19年にアトリエに改修して拠点としたのがきっかけになった。
作州地域の自治体や学校、民間と連携し、絵巻物の教室をメインに20年から同市や真庭市、鏡野、奈義町の小学校や文化施設など10カ所以上で開催。「葉っぱの一生」をテーマに命について感じたことを長さ6メートルの巻紙に表現する。想像力や個性を引き出せるよう教えることは一切せず、思い思いに仕上げさせる。
新型コロナウイルス禍が収束せず、渡航を見送る日々が続く中、寺子屋プロジェクトを育てていきたいとの思いが強くなっているという。「全国で点としてやってきたことを作州地域から面に広げたい」と語る武藤さん。「それが日本に生まれ、世界で仕事をさせてもらった恩返しになるはずだから」
山陽新聞社は、地域の方々と協力して課題解決や魅力創出を図る「吉備の環(わ)アクション」を展開中。武藤さんの取り組みを紙面などで報道するほか、県南で初となる「心の絵巻物」を8月19日、山陽新聞カルチャープラザ本部教室(086―803―8017)で開く。
(2022年07月28日 20時18分 更新)