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人付き合いは「2対7対1」の法則 気が合わない人は必ずいるもの

筆者が経営する会社にインターンシップに来ている大学生たち。この日はベトナムからの留学生の送別会
筆者が経営する会社にインターンシップに来ている大学生たち。この日はベトナムからの留学生の送別会
多賀公人さん
多賀公人さん
 私が経営している会社には常に10人程度のインターンシップの大学生が来ています。会社を興して7年にもなると、その大学生たちも社会人になり、時折訪ねてきてくれます。

 彼らから会社の話、私生活の話を聞いていると自分まで若返ったような気分になります。多くの場合、やりがいや、3年後はこんなことをしていたいとポジティブな話なのですが、なかにはその逆もあります。つい先日も社会人になって3カ月ほどの元インターンシップ生が訪ねてきてくれました。彼の場合は、第一希望の会社ではありませんが望む職種の会社に就職した、いわゆる就活成功組です。

 彼によると、仕事自体はほぼ想定していた通りなのですが、会社の雰囲気や人とのコミュニケーションがうまくいっていないみたいで、少し悩んでいるようでした。

 詳しく聞いてみると、なぜだか馬が合わない上司がいるそうです。何をしても褒めてもらえない。何か提案すると反対される。挨拶もほとんどしてもらえない。そんな具合なんだそうです。

 社会に出て、思っていた仕事内容や、想定していた環境と違って、悩み苦しみ、最終的には会社をやめてしまう、リアリティショックとは少し違う、どんな小さな社会、コミュニティーでもある、他人との関係。そこで悩んでいたのです。

 私の場合も含めて、過去を振り返って見ると、小学校でも高校でも、社会に出ても、人との関係で悩まない人は少ないのではないでしょうか。一つのコミュニティー、組織には最低1人ぐらい、馬が合わないとか、何故か好きになれない、仲間になれない人っていた気がします。それでも人生ってなんとかなるもんですね。私もこうしてコラムを書かせていただける人間になっています。

 ただ、社会に出て、馬が合わない、好きになれない人が上司だった場合は、私も経験がありますが、とにかく大変です。耐えて、耐えて、配置換えで、その上司と違う環境に配属されるまで耐えるしかありません。もちろん、環境が変わっても同じように馬が合わない人は必ず現れるものですが。

 少し話は違うのですが、私の場合、35年以上前にテレビ局に入社しました。当時のテレビ局は多くが新聞社を経験した人たちが現場のトップにいました。社員教育も当然新聞社のそれと同じように行われていました。昼夜なく仕事をして記事を書き、放送をする。追い込んで追い込んで、自分で取材のノウハウを学ぶ。その途中で弱音を吐いたりでもしたら、上司から仕打ちが待っている。そんな毎日でした。毎日辞めよう辞めようと思っていました。ですから直接の上司とは目が合うだけで震え上がり、まともに口も聞けませんでした。

 しかながら、この震え上がるほど怖い上司とはなんだかんだでよく話をしていました。頭ごなしに怒られることが多かったのですが、今では感謝しているほど、あの時代の放送局員としての教育の仕方はそれなりにありだったのではないかと思うのです。限度というものはありますが。

 働き方改革や、個の尊重と叫ばれる昨今で、こんなことを書くと怒られるかもしれませんが、どんな思いで、若手を育てようと思っているのか。当時は、社員教育が一見乱暴には見えますが、しっかりと成長ができるという歴史に裏付けされた伝統のようなものがあったように思います。

 だからと言って、これからの若い人たちの指導方法として今の時代にはそぐわないことは良くわかっています。ただ、当時はこの上司さえいなければなと思っていたことは確かですが、報道部から制作部に配置換えになっても、多かれ少なかれ同じような上司、対人関係に悩むことがなくなったということはありませんでした。

 では、私に相談にきた元インターンシップの彼に、私はどのように言ったのかです。当たり前のことです。馬の合わない人は必ず1人や2人はいるもの。組織が大きくなればなるほどその部類の人は増えてきます。さらに今、馬が合わない上司がいなくなっても、次の職場でも必ず、多かれ少なかれ同じような性質の人は現れると言いました。

 それでも人間は前を向いて生きていかなくてはいけません。私も同じようなことで悩んだことが人生の要所要所でありました。それでもこの考えに出会ったおかげで、それほど、深刻に悩まなくなったのです。

 2対7対1の法則というものがあります。アメリカの心理学者でカール・ロジャーズ氏という方が導きだした考えです。ロジャーズ氏に関しては以前も書いたことがありますが、カウンセリングの第一人者で、来談者中心主義を打ち出した方でもあります。私が持っているキャリアコンサルタントの資格は、はじめにロジャーズ氏の研究内容を勉強するところから始まりました。

 カール・ロジャース氏の「2:7:1の法則」は人間関係の法則といわれています。その考え方は、「10人いれば、2人は気の合う人、7人はどちらでもない人、1人は気が合わない人」というものです。別の言い方をすると、「自分の考え方や行動について、2人は無条件で賛成してくれる肯定的な人、7人はその時その時で変わるどちらでもない人、そして最後の1人は何をしてもどんなことをしても自分の事を嫌ったり、気が合わない人」となります。

 この「2:7:1の法則」はカウンセリングの相談現場で導き出された法則です。すなわち、相談者に説明したり説得したり助言したりする場合に、10人のうち2人は無条件に相談員の考えを受け入れてくれる相談者で、7人は相談員の説明によって受け入れてくれたり受け入れてくれなかったりする相談者で、残りの1人はどんなに説明しても賛同しない相談者です。

 相談員としては7人の相談者に賛同してもらうために努力することが重要となります。決して賛同しない1人に関しては、どんなに努力しても賛同を得ることができないと結論づけています。
そこで、このような相談者に対しては、「どんなに説明しても受け入れられない人だ」と考えて、ほどほどの対応にしておくべきだと説いています。これは、いい加減に扱うとか、手抜きをするとかではなく、すでにある程度努力はしているのだから、打ち切ると考えても仕方がないのだと言っているのです。

 だらだらと引きずっても得られるものは何もありません。それどころか、精神的にマイナスの影響を受けてしまいます。たった1人のために多くのエネルギーを注ぎ込むことは損失であり、そんなエネルギーがあるのなら別の相談者への対応にエネルギーを注ぐべきです―というのがロジャーズ氏が長年のカウンセリングの現場で見出した法則なのです。

 これは、私たち人付き合いにも言えることで、どんなに頑張っても、馬が合わないたった一人が必ずいるということなのです。そう思った方が気が楽ではありませんか。頑張って報われない人間関係もあると思うことで、自分を必要としてくれている人のために時間を割く方が建設的で、精神衛生上も良いと。私もそう思うのです。

 この考えを知ってからは、馬が合わないな、少し頑張ってみてもこの人とはうまくいかないなという人とは、むきにならないで、距離をとってしまう。相談に来た彼にもそう話しました。

 私が選んだアナウンサーという職種は、皆から愛されなさい、みんなに受け入れてもらえる努力をしなさい、などと教えられたりしました。そんな職業的なサガなのか、私の性格なのか、万人に愛されたいと努力してきました。しかし、愛してもらえない人もいて当然なんだ、と思うことで、救われた気持ちになれたのも確かです。

 世の中ままならないことが多い中で、人との付き合いなしでは生きていけませんが、付き合い方、付き合い方の考えを少し変えると、気が楽になることもあると思います。思い詰めないで、どうにもならない人もいる、もちろんどうにもならないこともある。そう思えれば、人生もっと楽しいかもしれませんね。

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多賀 公人(たが・きみと) コミュニケーションコンサルタント。瀬戸内海放送でアナウンサー兼プロデューサーとして28年務めた後、ユイ・コミュニケーション・ラボ(株)を設立。企業・団体を対象に映像を使ったコミュニケーション研修トレーナーや、商品PR・ブランド広報戦略のコンサルタントとして活躍中。現在も瀬戸内海放送や山陽放送でキャスター兼コメンテーターとしてレギュラー多数。プロゴルファー石川遼選手の「ハニカミ王子」の名付け親でもある。1963年玉野市生まれ。

(2022年06月29日 10時40分 更新)

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