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読みたい本を読む自由を奪われる…

 読みたい本を読む自由を奪われるのは、どれほどの苦痛だろう。「禁書」を巡る報道に触れ、つくづく考えさせられている。強権的な国家や歴史上の話ではない▼全米最大の地域図書館、ニューヨーク公共図書館がJ・D・サリンジャー著「ライ麦畑でつかまえて」など4冊をインターネットを通じて全国どこにでも無料で貸し出している。今月末までの緊急的な活動だが、なぜか▼書籍はいずれも一部の州の教育委員会などが禁書としたものだ。米国では人種や歴史、LGBTQ(性的少数者)問題などがテーマの本を公立学校や公共図書館から排除する動きが急激に強まっている▼保守的な保護者が「黒人差別を論じた本は白人の子に罪悪感を与える」などと政治を巻き込み、組織的に蔵書への異議申し立てをしているのだ。今年3月までの9カ月間で作家870人の千点余りが撤去されたり、授業で使えなくされたりしたという▼こんな新聞記事もあった。各地の教育現場で人種や性を扱う本が行方不明になる事例が増えている。どうやら、論争を恐れる管理職によって「自己検閲」という、もう一つの禁書運動が静かに広がっているようだ▼対して、ニューヨーク公共図書館の活動名は「全ての人に本を」。分断が進む今ほど、異なる文化や生き方があることを本から教わるべき時はない。

(2022年05月19日 08時00分 更新)

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