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「ゆりかご」15年 内密出産の議論を前へ

 親が育てられない子どもを匿名で預かる慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が今月、開設から15年を迎えた。

 多くの命を保護してきたものの、母子の安全確保や「出自を知る権利」の保障といった課題は未解決だ。今後は内密出産の法制化に向けた議論を前へ進める必要がある。

 ゆりかごは、赤ちゃんの遺棄を防ぎたいとドイツの先行例を参考に病院が2007年に開設した。外側から扉を開けて保育器に赤ちゃんを預けるとブザーが鳴り、職員が駆け付けて保護する仕組みだ。

 20年度までに計159人が預けられた。開設翌年の08年度に25人だったが、その後は減少傾向で、20年度は過去最少の4人だった。

 預け入れが減ったのは、病院が24時間体制で事前の電話相談などに応じてきたためだ。相談件数は多い時には年間7千件を超え、大半が熊本県外からだった。周りの人や公的機関に相談できない女性が全国にいることが分かる。

 預け入れについては熊本市が有識者による専門部会を設け、2~3年ごとに検証している。預け入れの半数以上は自宅などでの孤立出産で、近年は生まれた子の存在を周囲に隠して日常を送り、長距離移動してくる事例が増えており、専門部会は母子の生命を脅かしかねないと指摘する。

 実親の手がかりがないまま預けられると、子どもの出自を知る権利が損なわれることも開設当初から懸念されてきた。病院は扉のそばの看板で預け入れ前の相談を呼び掛け、できる限りその場での面談につなげているが、2割の身元が分からないという。

 こうした課題を踏まえ、病院が導入したのが内密出産制度である。病院の担当者だけに身元を明かして出産し、出自情報は病院が管理する。昨年12月に熊本県外の10代女性が初事例となり、今年4月には2例目となる熊本県外の女性が出産した。

 ドイツなど内密出産が法制化された国もあるが、日本では法的なよりどころがない。初事例を受け、熊本市が戸籍法に基づき、職権で子どもの戸籍作成を行うことになったが、他にも出自情報の管理方法など整理すべき課題は多い。市は国に対し、ガイドラインの早期策定とともに法整備の検討を急ぐよう要望している。安心して出産できる仕組みをつくるため、政府や国会は議論を進めるべきだ。

 慈恵病院によれば、匿名での出産や預け入れを望む女性の中には親から虐待を受けたり、軽度の知的障害や発達障害を抱えたりして相談すること自体が苦手なケースが目立つ。安心できる環境で保護して対話すれば、多くが実名を明かしてくれるという。

 15年間にわたる病院の経験に学び、各地の相談窓口の体制を強化することも必要だ。相談者が抱える問題を丁寧に聞き取り、必要な支援につなげたい。

(2022年05月17日 08時00分 更新)

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