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デジタル田園都市 看板倒れに終わらせるな

 岸田文雄首相が提唱している「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、有識者会議の議論が始まった。従来からある地方創生と組み合わせ、東京一極集中の是正を図ろうという試みだ。

 構想は、デジタル技術を使った新しいサービスや省力化技術などを地方で普及させて、人口減少がさらに進んでも、便利で豊かな生活を維持するのが狙いだ。

 高速・大容量の第5世代(5G)移動通信システムをはじめとしたデジタル基盤を地方に整備する。その基盤を活用して進める遠隔の医療、教育、防災、リモートワークといった取り組みを支援。財源として、デジタル田園都市国家構想推進交付金を創設することも打ち出している。

 スマート農業など、既に導入が進められている取り組みも活用する。デジタル技術を推進する専門員を全国に配置することも検討している。年内にも当面の具体策や中期的な施策を全体像としてまとめる方針だ。

 省庁ごとに縦割りで進められてきたデジタル化への取り組みを一体で進めることができれば効果は高まろう。ただ、地方では、核となる自治体の情報化が進んでいない。予算の確保と、専門人材の配置は急務だろう。

 安倍晋三政権が「地方創生」を掲げてから7年になるが、新型コロナウイルスの感染拡大もあって、国、地方ともに熱気は薄れている。一方、人口が集中して過密な東京では、コロナの感染リスクが高く、若者を中心に地方への移住希望も増えているという。東京一極集中の是正に向けた好機と捉えるべきだ。見逃してはならない。

 田園都市国家構想は、岸田氏の宏池会の大先輩に当たる故大平正芳氏が40年ほど前の首相時代に掲げた看板政策である。東京への人口集中が問題になり始めたころ、自然環境が豊かな地方で、大都市と変わらない暮らしを提供しようと主唱した。

 岸田氏は構想の頭に「デジタル」をのせた。デジタル技術で地方の苦境を克服し、あわせて国の産業政策に生かす考えなのだろうが、既に色あせている「地方創生」という看板の掛け替えに終わらせてはならない。

 懸念されるのは、大都市にある企業がデジタル化を活用して地方から利益を吸い上げる構図に陥ることだ。農業や教育などの情報を全国から集めることは大きな利益につながる。逆に地域から商店などがなくなり、人口減少を加速させる心配もあろう。

 かつて高速道路や鉄道網が東京中心に整備され、一極集中を加速させた過ちを繰り返してはならない。便利さだけを追求するのでなく、地方で生まれた技術や個性を、その地に根付いた事業者が国内外に発信し、取引できる環境を整えたい。そのための手段となるよう、デジタル化を活用しなければならない。

(2021年11月28日 08時00分 更新)

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