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ストップ!脳卒中(外科)―2種類の最新ステント治療― 岡山大学脳神経外科准教授 杉生憲志氏

杉生憲志氏
杉生憲志氏
ストップ!脳卒中(外科)―2種類の最新ステント治療― 岡山大学脳神経外科准教授 杉生憲志氏
ストップ!脳卒中(外科)―2種類の最新ステント治療― 岡山大学脳神経外科准教授 杉生憲志氏
ストップ!脳卒中(外科)―2種類の最新ステント治療― 岡山大学脳神経外科准教授 杉生憲志氏
 紙上講座第7回目(最終回)は脳卒中と頭痛をテーマに最新の知見を紹介します。

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 脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)などに分類されます。脳卒中に限らず、すべての病気は予防と早期治療が重要ですが、予防に関しては内科の先生に稿を譲りたいと思います。万一、脳卒中を発症してしまった場合には、特に早期の治療が重要となります。外科治療、中でも血管内(カテーテル&ステント)治療はこの数年で急速に発展してきた、「切らずに治す」身体に優しい最新治療です。

 脳梗塞は脳卒中のおよそ4分の3を占めるもっとも多い疾患で、脳の動脈が閉塞(詰まること)して、脳細胞に血流が行かなくなり細胞が死んでしまう病気です。障害された部位によってさまざまな症状が出現しますが、半身まひ(右か左の手足の運動障害)や感覚異常、失語症(言葉が出てこないあるいは他人の言うことが理解できない)、呂律(ろれつ)困難などが代表的な症状です。血管閉塞の程度と範囲にもよりますが、閉塞後4~8時間以上経過した場合には脳細胞の回復は困難、すなわち重篤な後遺症が残ることになります。逆に、脳梗塞になってしまう前の非常に早い時間帯に閉塞した血管を再開通できれば、症状の回復が期待できます。

 脳出血は、高血圧を中心とする生活習慣病を基盤として、長年のストレスで痛んだ脳の微細な血管が破綻して出血するもので、予防には日頃からの高血圧のコントロールが重要とされています。また、高血圧とは無関係に、動静脈奇形、硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)やモヤモヤ病などのまれな血管病変が原因となることもあります。出血が大きく脳の圧迫が高度な場合には、出血を取り除き、脳の減圧を図るため開頭術が選択されます。また、状況によっては脳の中に内視鏡を入れて、血腫を抜き取ることもありますが、出血自体は血管内治療の対象とはなりません。

 くも膜下出血は、ほとんどの場合、脳動脈瘤の破裂が原因で、突然の頭痛で発症し、重症例では救命が困難な致死率の高い病気です。このため、脳ドックなどで破裂する前に動脈瘤を発見し(未破裂脳動脈瘤)、予防的に治療する機会が増えています。一方で、治療による合併症もゼロではなく、未破裂脳動脈瘤を治療せずに経過を見た場合の破裂率は、日本のデータでは1年間で約1%とされており、小さい動脈瘤ほど破裂しにくいとの分析もあります。このため、日本のガイドラインでは大きさ5~7ミリ以上の瘤(こぶ)は治療を勧めるとされていますが、患者さんの年齢や瘤の部位・状態によって状況は変わりますので、専門医とよく相談して治療方針を決定することが重要です。

 ステントは金属製メッシュの筒状構造物で、本来は血管狭窄(きょうさく)部を拡げるために開発された医療器具で、血管の中に埋め込むように留置します。脳神経外科領域では頚動脈狭窄の血管内治療として、この10年くらいの間にポピュラーなものとなってきました(図1)。最近、技術革新により、微細な脳内の血管にも安全に導入できるステントが開発され、脳動脈瘤のコイル塞栓術の際に、コイルが正常血管に飛び出てこないよう支える目的で応用され、良い成績をあげています。さらに脳梗塞急性期に血管を閉塞した血栓を捕捉・回収する切り札として注目され、世界中で多くの臨床試験が行われ、その結果が2015年以降に続々と報告されました。それらによると、従来の血栓溶解薬t-PA点滴による再開通率が50~60%程度であったものが、ステントによる血栓回収療法を加えたところ80~90%と著明に向上しました。この結果を受けて、ステントによる血栓回収療法は世界中で急速に広まり、今では本邦でも多くの脳神経外科専門病院で行われる治療となりました(図2)。また、症状の改善は治療開始が早ければ早いほど良好であることも証明され、日本全国どこでも等しく本治療が早急に受けられるよう、「脳卒中・循環器病診療体制の整備と充実」が法整備され進められています。

 ステントに関するもう一つの革新的治療が、治療困難な動脈瘤に対する血流変更ステントです(図3)。従来のステントのメッシュをさらに細かくすることで、瘤内での血液の停滞(血流変更)が起こり、コイルを使うことなく、自然な動脈瘤の治癒が得られるというコンセプトです。危険な動脈瘤の中にコイルを入れることなく、ステントを埋め込むだけの非常に有望な治療ですが、治癒するまで数カ月~数年かかること、現状では確実に治るとは言えず(80~90%の完治率)、長期に血液さらさらの薬を飲む必要があること、高度な技術と経験が必要な最先端治療であること、等々の課題もあります。このため、現時点では、従来治療が困難な未破裂動脈瘤に限定して、大学病院などの高度先進医療施設のみで行われています。今後、さらなる機器の開発・改良により安全性・有効性が高まり、多くの患者さんに使用できるようになることが期待されています。

(2021年10月16日 15時57分 更新)

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